このページの要点
- 投稿本数は「1本」の定義(承認・提示・公開のどれで数えるか)と、発注者の都合で見送られた分、修正の回数、未消化分の扱いを決める。
- 承認は期限・連絡手段・承認権者をセットで書く。承認の対象を内容に限り、入稿や公開設定の誤りなど受託者の作業上の誤りは分けて書く。
- アカウントの凍結・制限は、故意・重大な過失を例外とした免責に、注意義務と通知・異議申立ての支援を並べる。炎上時の判断は発注者、連絡は受託者と分担する。
- 運用代行と内製化支援は仕事の性質が違うため書き分ける。代理店経由の再委託では、フリーランス法の明示や支払期日、権利処理の対価を確認する。
結論:SNS運用代行の契約は「数え方」「承認の線」「媒体側の事情」「終わらせ方」の4つで決まる
広告運用や集客支援の会社が、メニューにSNS運用代行を加えるとき、既存の広告運用の契約書をそのまま流用して始めることがよくあります。ところが、広告運用では媒体費と成果の数字が争点になりやすいのに対し、SNS運用では「投稿が何本あれば約束を果たしたことになるのか」「発注者が承認しないまま止まった期間の月額はどうなるのか」「アカウントが凍結されたとき誰が責任を負うのか」「炎上したとき、どこまで動くのか」が争点になります。結論を先に整理すると、次の4点を契約書の言葉で決めておくことになります。
- 投稿本数は「何を1本と数えるか」を定義する。制作した時点、承認された時点、公開した時点のどれで数えるのか、発注者の都合で見送られた分は本数に入れるのか、修正は何回まで月額に含めるのかを書く。
- 承認の流れは、期限、連絡手段、承認とみなす場合の条件、承認後の責任の分け方をセットで書く。承認したことを理由に受託者が全部免責される書き方は、受託者が専門家である以上、そのままでは通りにくい。
- アカウントの凍結・制限、アルゴリズムの変更は受託者が支配できない事情だが、全面免責にはしない。受託者が負う注意義務の中身(規約違反を避ける運用)と、凍結時にとる手順(通知、異議申立ての支援、精算)を書いて初めて免責が説明できる。
- 終わらせ方は、中途解約、更新、アカウントの権限の返還、内製化への切り替えまでを一続きで考える。運用代行から助言中心の伴走型に移るときは、仕事の性質が変わるため、契約も書き分ける。
このページでは、広告の契約として全体を扱う広告運用代行の契約書の型と業務範囲、アカウントの名義を扱う広告アカウントの名義と契約終了時の引継ぎで整理した考え方を前提に、SNS運用に固有の部分だけを取り上げます。
広告運用代行の契約をそのまま使うと、どこがずれるか
広告運用代行の契約は、媒体に出す広告費を預かり、入札や配信設定を調整し、数字を報告する仕事を前提に作られています。SNS運用代行は、アカウントの上で「見える投稿」を作り続ける仕事です。成果物が発注者のアカウントに公開されて第三者の目に触れる点、報酬が配信の調整ではなく制作と投稿の量に結びつきやすい点、発注者側の確認待ちで仕事が止まりやすい点が、広告運用との大きな違いです。
| 論点 | 広告運用代行 | SNS運用代行 |
|---|---|---|
| 仕事の単位 | 運用する期間と、調整の作業。広告費は媒体に支払う | 投稿の本数、撮影の回数、レポートの回数。制作と投稿が仕事の中心 |
| 完成の判定 | 配信が開始され、レポートが出たか | 投稿案が承認されたか、公開されたか、見送りになったか |
| 止まる原因 | 入稿素材や権限の遅れ | 投稿案の承認待ち、素材の未提出、撮影への非協力 |
| 媒体側の事情 | 広告審査の不承認、配信の停止 | アカウントの凍結・制限、表示の抑制、投稿の削除、アルゴリズムの変更 |
| 表に出るもの | 広告の表示(広告主の表示) | 発注者の公式アカウントの投稿そのもの。反応や炎上も公開の場で起きる |
| 終了時 | 広告アカウントの権限の返還 | アカウントの権限の返還に加え、予約投稿、制作素材、編集データの扱い |
広告費の預かりや精算は広告費(媒体費)の契約条項で扱っています。SNS運用でも広告を併せて出すなら、投稿の運用と広告運用を別の業務として切り分けます。
投稿本数は何を数えるのか:制作・承認・公開・見送りの線引き
「月8本」「月10本」という本数は、契約の中で最も金額に直結する数字です。それなのに、1本が何を指すのかは、意外なほど書かれていません。リール動画1本、フィード投稿1本、ストーリーズ1日分、といった種類の違いに加え、撮影だけして公開しなかったものや、修正を重ねてようやく公開したものをどう数えるのかで、月末に認識がずれます。
| 場面 | よくある空白 | 書き方の方向 |
|---|---|---|
| 種類の違い | リール、フィード、ストーリーズが同じ「1本」として扱われる | 種類ごとに本数を分けて書く。ストーリーズは「1日1投稿を月○日分」など、日数で書く方法もある |
| 承認までの流れ | 制作しても承認されない投稿を数えるのか不明 | 承認された投稿を数える型と、制作して提示した時点で数える型を選び、一方に統一する |
| 発注者の都合で見送り | 完成したのに公開されなかった動画を、本数に入れるのか | 発注者の都合で見送られた制作物は、本数に算入する旨を書く(算入の条件も書く) |
| 修正の回数 | 何度でも直す前提と、受託者が考える前提がずれる | 1本につき月額に含む修正の回数を決め、超える分は別料金とする。修正を依頼できる期間も決める |
| 月の途中開始 | 初月の本数が満額か日割か | 開始日が月の何日以降なら本数を減らすのか、基準日を決める |
| 未消化分 | 発注者の確認待ちで投稿できなかった本数の繰越し | 繰り越さない(その月で消滅する)のか、翌月に繰り越すのかを決める |
見送りの扱いは、月額固定の契約でも争いになります。受託者が撮影と編集を終えたのに、発注者の判断で公開されなかった動画があるとします。受託者としては仕事を終えたと考える一方、発注者としては公開されていない以上、成果物を受け取っていないと考えがちです。投稿案を提示した時点で月間の投稿本数に数える、と決めておけば、発注者が見送った分も受託者の履行として扱える一方で、発注者には「見送るなら再制作を依頼する」という選択が残ります。
本数の数え方による違いを、数字で見てみます。たとえば月額15万円で月10本を制作する契約で、発注者が承認しなかったため2本が公開されず、1本を修正の上限を超えて作り直した月があったとします。見送りの2本を算入する定めがあれば、月額15万円はそのまま発生し、作り直しの1本は、上限を超えた修正として別料金を請求できるかどうかが、修正回数の定めで決まります。見送りを算入する定めがなければ、10本に届いていない月として、減額や翌月への繰越しを求める主張を受けやすくなります。この「届かなかった理由が発注者側にあるとき」の扱いが、本数の条項で最も大切な部分です。
条文例投稿本数・見送り・修正の条項(考え方の例)
- 受託者は、別紙に定める種類ごとの本数を、毎月、発注者のアカウントに投稿する案として制作し、発注者に提示する。本契約において「1本」とは、別紙に定める種類ごとの投稿1件をいい、発注者が承認した投稿案、又は第○条によって承認されたものとみなされる投稿案をいう。
- 発注者の都合により、承認された投稿案が公開されなかった場合も、当該投稿案は当月の本数に算入する。発注者が再制作を依頼する場合は、再制作に係る費用を別途協議する。
- 発注者の回答の遅れ、素材の未提出その他発注者の責めに帰すべき事由により当月の本数に満たなかった場合も、月額報酬は減額されない。未消化の本数は、翌月に繰り越さない。ただし、受託者は、発注者の求めがあるときは、遅れの原因となった事項を書面又は電磁的方法で報告する。
- 1本の投稿案につき、月額報酬に含まれる修正は○回までとし、受託者が修正を行える期間は、投稿案を提示した日から○営業日以内とする。これを超える修正は、発注者の事前の承諾を得た上で、別途の費用で行う。
本数・回数・期間の空欄は、実際の運用に合わせて決めます。発注者が消費者に当たる可能性がある場合の注意は、後半の解約に関する部分で触れます。
承認フローと炎上時の対応:投稿の責任を、どこで、誰に割り振るか
SNS運用代行の契約書には、「発注者が承認した投稿に起因する問題について、受託者は責任を負わない」という条項がよく入っています。承認というステップで責任を発注者に寄せる発想です。一方、発注者側の立場でこの条項を点検すると、広告設定のミスや誤入稿のように受託者の作業の誤りが原因のものまで、承認があれば免責されるとも読めてしまう、という指摘が出ます。実務では、承認の対象を「内容」に限り、受託者が作業で起こした誤り(入稿の取り違え、公開の設定の誤り、対象の誤り)は承認の対象外として受託者が責任を負う、と書き分ける形が多く見られます。
投稿が公開されるまでの承認の流れと、それぞれで決めること
- 1 投稿案の提示提示する方法(指定のチャットやメール)と、提示日の記録
- 2 確認・修正回答期限、修正の回数、期限までに回答がないときの扱い
- 3 承認誰が承認する権限を持つか。承認の方法(文言、スタンプ、返信)
- 4 公開公開日時、公開の設定の確認、予約投稿の管理者
- 5 公開後コメントへの対応、修正・削除の依頼先、緊急時の連絡先
承認した人が発注者の中で権限を持つ人かどうかも、後の争いになる。承認権者を申込書や別紙に書いておく。
「みなし承認」の書き方と落とし穴
発注者の確認待ちで投稿が止まることを防ぐため、投稿案を受け取ってから3営業日以内に回答がないときは承認されたものとみなす、という条項が使われます。確認が遅れる発注者を相手にする受託者にとっては有用ですが、使い方を誤ると、受託者側に不利に働きます。
- みなし承認の前提として、提示が相手に届いたことが前提になります。指定の連絡手段に投稿案を送ったこと、送った日時、相手が見られる状態にしたことを、受託者が記録で示せなければ、「見ていない」と言われると主張が崩れます。連絡手段は申込書や別紙で特定し、その手段に送った時点で到達したとみなす、と書いておくと実務上扱いやすくなります。
- みなし承認を、公開内容の責任を発注者に移す理由にまで広げすぎないことです。確認の機会を与えたことで、投稿のタイミングに関する遅延の責任は発注者に寄せられます。しかし、表現の誤りや権利侵害のように、専門家である受託者が気づくべき問題まで、承認とみなされたことで消えるとは限りません。
- 法令や媒体の規約に反するおそれのある指示には、受託者が実施を断れる権限(拒否権)を書き、断った場合に、その分を本数に数えるのか、報酬はどうなるのかも書いておきます。断る権限だけがあり、その後の本数と報酬の扱いが空白だと、拒否したことが月額をめぐる争いのもとになります。
書き方の例(一般的な例) 承認と責任の条項
承認の効果
承認の対象を「内容」と「作業」に分け、作業の誤りまで免責にしない形です。発注者が専門家である受託者の注意を期待する範囲と、受託者が引き受ける範囲が文言で見えるようになります。
炎上・誹謗中傷への対応:受託者の業務に入れるのか
炎上という言葉は、契約書では扱いにくい概念です。批判のコメントが数件ついた状態から、報道に取り上げられる状態まで幅があり、どの時点から「炎上」なのかは決められません。そのため、実務で多い書き方は、炎上への対応そのものを受託者の業務に含めない、という整理です。受託者の業務に含まれるのは、通常の運用の範囲での投稿とコメントへの一次対応にとどまり、炎上時の謝罪文の作成、批判への返信方針の決定、緊急の投稿対応、24時間の監視は含まれない、と書きます。
ただし、これを業務から外しただけでは、実際に批判が集まったときに受託者が何もしなくてよいのかという疑問が残ります。そこで、次の3つを分けて決めておく運用が考えられます。
- 受託者が行うこと:批判的なコメントを見つけた場合の発注者への連絡(連絡の期限と手段)。連絡の義務までを受託者の業務とし、対応の判断は発注者が行う。
- 発注者が決めること:返信するか、非表示にするか、投稿を非公開にするか、謝罪の投稿を出すか。受託者は、発注者の指示があって初めて作業をする。
- 緊急時の例外:発注者と連絡が取れない間に被害が広がるおそれがあるときに、受託者が投稿を一時的に非公開にできるか。できるとする場合は、その事後報告の方法と、非公開にした判断への責任の範囲を書く。
アカウントの凍結・制限と、投稿の表示規制:媒体側の事情をどう分けるか
アカウントの凍結、投稿の削除、表示の制限、アルゴリズムの変更。SNSの運用では、受託者がどれほど丁寧に運用しても、媒体側の判断で状況が変わります。このため、SNS運用代行の契約書の多くに「プラットフォームの措置について受託者は責任を負わない」という条項があります。この条項を、どこまで強く書けるのかが論点です。
書き方の例(一般的な例) アカウント凍結・制限の条項
全面免責
免責に例外(故意・重過失)を付け、受託者の注意義務と、凍結後の手順を並べて書く形です。受託者が選んだ音源や投稿方法がきっかけで制限された場合は、免責の範囲外になり得るため、「免責される場面」と「免責されない場面」を想定して書くことになります。
事業者間の契約では、責任を軽くする条項も原則として有効ですが、受託者が重大な過失で損害を与えた場合にまで責任を全く負わないとする条項は、効力が限定される場合があります。そのため、免責の条項は、故意・重大な過失を例外にする形で作るのが、実務の標準です。発注者が個人で、事業性が明らかでない場合は、消費者契約法の適用を考える必要があります。事業者の債務不履行による責任の全部を免除する条項は無効とされ(8条1項1号)、責任の一部を免除する条項も、故意又は重大な過失の場合まで免除するものは無効とされます(8条1項2号)。上限を設ける場合は、その上限を定める条項の中で、事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失による場合を除く(重大な過失を除く過失による行為にのみ適用される)ことを明らかにしておかなければ無効となり得ます(8条3項)。「故意又は重大な過失による場合を除き責任を負わない」と書いても、軽い過失について責任の全部を免除する形になるため、消費者に当たる相手には、全部免除ではなく上限を設ける形にします。事業者間の取引を想定する契約でも、申込みをする人が本当に事業者なのかを、申込書で確認できるようにしておくと、後で適用される法律が変わるリスクを減らせます。
アカウントの権限と、ログイン情報の扱い
凍結の場面で意外に争点になるのが、アカウントをどのような権限で運用していたかです。発注者のログイン情報を受託者が預かって運用していた場合と、媒体が用意する権限付与の機能(管理者や編集者の追加)を使って運用していた場合とでは、情報の漏えいや不正アクセスが起きたときの責任の所在が変わります。名義は発注者に置き、受託者には必要な範囲の作業権限だけを付与することは、広告アカウントの名義と引継ぎで整理したとおり、SNSでも同じです。そのうえで、SNS運用では次の点を契約に入れておくと、凍結や乗っ取りが起きたときの手順が明確になります。
- ログイン情報(IDやパスワード、二段階認証の端末)は発注者が管理し、受託者の担当者には個別の権限を付与する。共有のIDを使う場合は、発注者の事前の承諾を条件にする。
- 権限を付与された担当者以外にログインさせない(再委託先を含む)ことと、端末の管理を受託者の義務にする。
- 凍結、乗っ取り、不審なログインに気づいたときの連絡の期限と手段、および発注者が行うパスワードの変更や権限の見直しの手順を決める。
- 契約が終わったときは、付与した権限を解除し、予約投稿や連携ツールのアクセスも整理して、完了を書面(電子メールを含む)で報告させる。
投稿内容の表示規制:責任を分ける
SNSの投稿は、商品やサービスの広告として、景品表示法や、薬機法などの表示に関する法律の規制を受けることがあります。法律によって、規制を受ける人が広告主に限られる場合と、広告主に限られない場合があります。広告主に限られない規制がある分野では、発注者の承認を得て投稿しても、制作した受託者が責任を免れるとは限りません。詳しくは広告運用代行と景品表示法・薬機法・医療広告で整理していますが、SNS運用の契約書では、少なくとも次の3点を決めておきます。
- 表示する内容(効能、効果、比較、実績、価格、体験談)の真実性と、その根拠資料を保持し提出する責任は、発注者にあること。
- 受託者が法令面で行う確認の範囲(明らかな問題の指摘にとどまり、適法性を保証するものではない)。
- 広告であることの表示(PR表記)が必要かどうかを、誰が判断し、誰が表記するか。出演者やインフルエンサーの個人アカウントを使う企画では、特に確認が要る。
運用代行から内製化支援へ、そして代理店経由・再委託の構図
運用代行を続けた先に、発注者が自社で運用できるようにしたい、という希望が出ることがあります。運用代行は、受託者が制作と投稿を行う仕事です。内製化支援や伴走型のサポートは、発注者が運用できるように助言や研修を行う仕事で、仕事の性質が違います。契約書も、この違いを意識して作ります。
| 項目 | 運用代行 | 内製化支援・伴走型 |
|---|---|---|
| 仕事の中身 | 企画、撮影、編集、投稿を受託者が行う | 定例の打合せ、質問への回答、改善の助言を行う。制作と投稿は発注者が行う |
| 契約の性質 | 制作部分は仕事の完成を約する請負に近く、投稿の運用は事務を続ける準委任に近い | 事務を行う準委任が中心。結果の達成は約束しない |
| 報酬の根拠 | 制作の本数と期間 | 助言を行う期間と回数(月の打合せの回数、質問への回答時間) |
| 成果物の権利 | 制作した投稿の権利は、契約で決める(発注者に移すか、許諾にとどめるか) | テンプレート、マニュアル、資料は受託者に留保し、発注者には利用を許諾する形が多い |
| 責任の範囲 | 制作物の不備は、修正の対応や期間の制限で調整する | 助言に従って発注者が行った運用の結果は、発注者の責任。成果の非保証を明記する |
| やりがちな誤り | 月額に助言や研修を含めたつもりで業務範囲を広げる | 投稿の代筆や広告運用が含まれると期待される |
運用代行の契約に内製化支援を後から足すと、業務範囲が曖昧になります。実務で見られる書き方は、運用代行の契約では内製化支援や研修を業務に含めないと書き、必要になったときに別途の合意で追加する形です。逆に、伴走型の契約では、投稿記事の代筆、画像や動画の制作、有料広告の運用を原則含めない業務として列挙し、別途の書面による合意があった場合に限り実施を検討する形で、期待のずれを防ぎます。
代理店経由・再委託の構図
広告代理店や集客支援の会社が、SNS運用を自社のサービスとして売り、実際の制作と投稿は別の事業者や個人に任せる形があります。この場合、契約は二段になります。エンドクライアント(実際にアカウントを持つ事業者)と代理店の契約、代理店と実務を担う事業者の契約です。二段の契約で、書いておかないと争いのもとになる点があります。
- エンドクライアントの承認の遅れや協力不足は、実務を担う事業者から見れば代理店の責任の範囲ではありません。代理店の契約に、代理店の責任でエンドクライアントに業務のルールを周知し、守らせると書き、承認の期限もエンドクライアントに及ぼす形があります。
- 代理店がエンドクライアントから受け取った報酬の一部を差し引いて、実務を担う事業者に支払う形では、エンドクライアントの入金がなくても支払う義務があるのか、が争点になります。入金の有無に関わらず支払うと書くのか、入金を条件にするのかを決め、報酬の再計算の手続も書きます。
- 実務を担う事業者が、従業員を使用しない個人や一人会社である場合、代理店は、フリーランス法の業務委託事業者(2条5項)として、報酬や支払期日などの取引条件を直ちに書面か電磁的方法で明示する義務があります(3条)。代理店が従業員を使用する場合などで特定業務委託事業者(2条6項)にも当たるときは、受領日から60日以内の支払期日(4条)、1か月以上の業務委託での禁止行為(5条)、継続的な業務委託を解除や更新しない場合の30日前の予告(16条)にも注意が必要です。なお、役務の提供を委託する場合は、5条1項の1号と3号の禁止行為は適用されません。
- 再委託する制作について、権利を受託者から代理店、そしてエンドクライアントに渡す構造のときは、実務を担う事業者への報酬に、権利の譲渡の対価が含まれることを、発注の時点で明示しておきます。報酬に含めずに無償で権利を渡させる形は、5条2項1号が禁じる、自己のための経済上の利益の提供に当たるおそれがあります。
外注側の契約全般は広告運用・営業代行の外注契約、制作物の権利はLP・バナー・広告文の著作権と契約書で整理しています。SNS動画では、制作者が著作権法27条・28条の権利を含めて譲渡するかを明記しないと、これらの権利が譲渡した者に留保されたものと推定されます(著作権法61条2項)。撮影・編集後に切り抜きやテロップの差し替えをする運用では、著作者人格権のうち同一性保持権(20条)を行使しない旨の合意も、制作者から取っておきます。
よくある失敗と直し方:中途解約・更新・精算の書き方
SNS運用代行の契約書で、実際に争いに直結しやすいのが、期間・解約・精算の条項です。契約期間が長く、中途解約に重い違約金を置いた契約は、発注者から「効果が出ないのに辞められない」と受け止められ、受託者としても、実際には回収できない条項になりがちです。
書き方の例(一般的な例) 期間・解約・精算の条項
残存期間分の違約金
準委任の運用部分は、民法651条1項により各当事者がいつでも解除できます。残りの期間の報酬を全部受け取る形は、民法の原則から大きく離れるため、公序良俗(民法90条)の観点から争われやすく、発注者が消費者と評価されるときは、消費者契約法9条1項1号により、同種の契約の解除に伴う平均的な損害を超える部分は無効です。期間を区切った上限を設ける形が、実際に説明しやすい書き方です。
不具合の通知期間にも注意が必要です。制作部分が請負の性質を持つと、成果物が契約の内容に適合しないときの責任の期間は、不適合を知った時から1年以内の通知が原則になります(民法637条1項)。期間を契約で短くすることは、事業者間なら合理的な範囲で可能と考えられますが、引渡しの時に請負人が不適合を知っていたか、重大な過失で知らなかったときは、この期間制限が適用されません(637条2項)。SNSの投稿では、「公開から○日以内に通知がなければ、無償の修正を求められない」と期間を定めておくと、半年前の動画の誤字を理由に全部の修正を求められる、といった事態を避けられます。
中途解約・更新の全体像は広告運用代行・集客支援の契約期間と中途解約、成果の保証をめぐる書き方は広告運用代行の契約書と成果保証、報酬の決め方は広告運用代行の手数料と報酬の決め方で扱っています。SNS運用では、フォロワー数や再生数を保証しないこと、提案時に示した目標値は努力目標であって契約内容ではないことを、契約書に書いておくと、提案書の数字が契約の一部だったという主張を受けにくくなります。
条文例媒体側の事情・成果・目標値の条項(考え方の例)
- 受託者は、フォロワー数、再生数、エンゲージメント、問い合わせ数、売上その他の成果を保証しない。提案書、見積書その他の資料に記載した目標値は、運用の目安であり、受託者の約束ではない。
- 媒体の仕様変更、アルゴリズムの変更、第三者の通報その他媒体側の判断により、アカウントの停止、凍結、投稿の削除、表示の制限が生じた場合、受託者は、その故意又は重大な過失による場合を除き、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。
- 前項の場合、受託者は、措置を知った後速やかに発注者に通知し、媒体が定める異議申立て等の手続について、発注者の求めに応じて必要な支援を行う。措置が解消されるまでの期間の月額報酬の取扱いは、あらかじめ別紙に定める。
第3項の「期間の月額報酬」は、凍結中も運用の準備が続くのか、運用が止まるのかによって、減額や休止のしかたを決めます。
ヒヤリングで確認すること:契約書を書く前に聞いておく問いと理由
SNS運用代行の契約書は、条文を整える前に、運用の実態を聞き取らないと、実際の運用と契約書が合わなくなります。実務で聞き取る項目を、その理由とあわせて整理します。
確認の問いと理由SNS運用代行の契約書を作る前の確認事項
運用するアカウントは誰の名義で、誰がログインできますか。新規に作る場合の登録情報は誰のものですか。
受託者の名義で作ると、終了時にアカウントを引き継げず、権限の返還をめぐる争いのもとになります。名義と二段階認証の端末は発注者のものにするのが基本で、その前提で権限と終了時の手順を書きます。
月の投稿は、リール、フィード、ストーリーズのそれぞれ何本ですか。撮影は月に何回ですか。
本数と回数が曖昧なままでは、1本の定義も、月額の根拠も書けません。種類ごとの本数と、撮影の上限を確認します。
投稿案を確認し、承認するのは誰で、どのツールで連絡を取りますか。何日で回答できますか。
承認権者と連絡手段が決まっていないと、みなし承認の効力も、遅れの責任も主張できません。実際に使う連絡手段と、現実的な回答期間を聞き取ります。
扱う商品は、化粧品、健康食品、医療や美容に関わるものですか。出演者やインフルエンサーは使いますか。
表示に関する法律の規制が厳しい分野では、投稿の内容に受託者自身の責任が問われる場合があります。受託の可否と、確認の手順、拒否権の定めに影響します。
申込みをするのは法人ですか、個人ですか。個人の場合、すでに事業をしていますか。
個人で事業の実態が乏しいときは、消費者契約法が適用される可能性があり、解約金や免責の条項の書き方が変わります。申込書で事業者であることを確認できるようにします。
よくあるご質問
SNS運用代行の契約書で、投稿本数はどう書けばよいですか。
リール、フィード、ストーリーズなど種類ごとに本数を分け、1本が何を指すのか(承認された投稿案か、提示した時点か)を定義します。発注者の都合で見送られた分を本数に算入するか、修正は何回まで月額に含むか、未消化分を繰り越すかも決めておくと、月末の請求で争いになりにくくなります。
投稿を承認したら、受託者は責任を負わなくてよいのですか。
承認で受託者が全部免責されるとは限りません。承認の対象は投稿の内容に限り、入稿の取り違えや公開設定の誤りなど、受託者の作業上の誤りは受託者の責任とする書き方が実務で多く見られます。専門家として気づくべき問題を、承認があったことだけで免責にする書き方は、発注者から修正を求められやすい箇所です。
アカウントが凍結されたとき、受託者の責任はどうなりますか。
媒体側の判断による措置は受託者が支配できないため、故意・重大な過失がある場合を除き責任を負わない、と書くのが一般的です。あわせて、規約違反を避ける運用をする注意義務と、凍結を知ったときの通知・異議申立ての支援・凍結期間中の報酬の扱いを書いておくと、免責の根拠を説明できます。
炎上したときの対応は、運用代行の業務に含まれますか。
実務では、炎上時の謝罪文の作成や緊急の投稿対応、24時間の監視は業務に含めないと書くことが多いです。そのうえで、受託者は批判的なコメントを見つけたら発注者に連絡し、返信・非表示・謝罪の判断は発注者が行う、という分担を決めておきます。
運用代行から内製化支援に切り替えるとき、契約書はどうしますか。
運用代行は制作と投稿を行う仕事、内製化支援は助言や研修を行う準委任の仕事で、性質が違います。運用代行の契約には内製化支援を含めず、必要になったときに別の合意や契約で、回数・期間・報酬・資料の権利・成果の非保証を定めるのが分かりやすい方法です。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月22日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 表示対策(消費者庁) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)