このページの要点
- 秘密情報は、広告アカウントの設定、配信データ、顧客情報、認証情報などを例示し、性質上秘密のものも含める。
- 認証情報は秘密情報の例に明記し、IDとパスワードの共有ではなく、必要最小限の個別の権限付与で渡す。
- 法令による開示は除外の条に混ぜず、別の条で事前の通知と必要最小限の範囲を条件に書く。
- 終了時は、資料の返還・削除に加えて、媒体上の権限の解除と完了の報告を義務にする。
結論:広告代理のNDAは、情報の種類を具体的に挙げ、権限の解除まで終了時の義務に入れる
広告運用代行やマーケティング支援の仕事では、広告主は代理店に、広告アカウントの管理画面、配信の成績、顧客の一覧、予算の計画、そしてログインに使うIDとパスワードまで見せることになります。NDA(Non-Disclosure Agreement。秘密保持契約)は、こうした情報を相手に渡すときの約束事を書面にしたものです。広告代理業務のNDAで検索する方の問いは、多くの場合「何を秘密情報として書けばよいのか」「契約が終わったら何を返し、何を消すのか」の二つに集約されます。先に答えを挙げると、実務では次の四点でそろうことが多いです。
- 秘密情報は、「一切の情報」と書くだけにせず、広告アカウントの設定、配信データ、顧客情報、予算や戦略、認証情報といった種類を具体的に例示し、そのうえで「性質上秘密として扱うべき情報」も含める。
- 認証情報(IDやパスワード、二段階認証のコードなど、ログインに必要な情報)は秘密情報の例に明記し、共有ではなく必要最小限の権限付与で渡す。
- 法令による開示や専門家への開示は、秘密情報から外す条文に混ぜず、「開示できる場合」の条文として別に書く。
- 終了時は、資料の返還・削除に加えて、広告媒体上の共有権限やアクセス権の解除を義務にし、完了を書面(メールを含む)で報告させる。
広告アカウントの名義そのものの決め方は広告アカウントの名義と契約終了時の引継ぎで扱っており、ここでは秘密保持の側から見た扱いに絞ります。
秘密情報の範囲:何を書き、何を外すか
広告代理業務で実際に秘密になる情報
広告代理業務のNDAの定義条項は、他の業種のNDAより、情報の中身が専門的です。次の表のように、種類ごとに分けて考えると、書き落としが減ります。
| 種類 | 具体例 | 書くときの注意 |
|---|---|---|
| 広告アカウントに関する情報 | 媒体ごとの設定内容、運用実績、アカウントに付与された権限、アクセスの記録 | 「アカウントがあること自体」と「中身(設定・履歴)」を分けて書くと、何を守るのかが明確になる |
| 広告の配信データ | コンバージョン数、広告費、CPA(1件の成果を得るのにかかった費用)、クリック率、表示回数、キーワード、検索語句、広告文、ROAS(広告費に対する売上の比率) | 数字は単体でも競合に知られたくない情報。レポートやスクリーンショットになったものも対象に含める |
| 顧客情報・見込み客の情報 | 顧客リスト、問い合わせの履歴、メールやLINEの配信先 | 個人情報が含まれる。NDAだけでなく、個人データの取扱いの条も別に要る(後述) |
| 認証情報 | ID、パスワード、管理画面の情報、二段階認証の設定 | 例示に明記する。終了後に使い続けることを違反と扱う根拠になる |
| 事業の計画・戦略 | 予算の配分、価格の戦略、キャンペーンの計画、新商品の情報 | 広告の出稿前の情報は、公表前の内容が多く、漏れると影響が大きい |
| 契約条件・取引条件 | 報酬、手数料率、見積り、取引の存在 | 取引先に知られたくない場合は、契約の存在や交渉の内容まで含めるかを決める |
表の例は一般に見られる整理です。案件に応じて、媒体や商材に合わせて入れ替えます。
一方向か、双方向か
NDAには、情報を出す側だけが秘密保持義務を負う一方向型と、双方が互いの情報を守る双方向型(相互型)があります。広告代理業務では、広告主が情報を出す場面が多い一方で、代理店の側も、入札の設定の考え方、レポートの様式、運用の手順といった自社のノウハウを開示します。そのため、「開示当事者」と「受領当事者」という書き方で相互型にしておく例が多く見られます。
「秘密」の表示を要件にするか、性質で判断するか
秘密情報の定義には、大きく三つの書き方があります。
定義の三つの型(広告代理業務に当てはめた場合)
表示方式
「秘密」と表示したものだけが対象
- 範囲が明確で、受領者は何を守ればよいか分かる
- 管理画面を画面共有しながら口頭で数字を話す場面では、表示のしようがなく、守れない情報が出る
性質方式
表示がなくても、性質上秘密と認識できるものが対象
- 実際の運用に合う
- 受領者から見ると、何が秘密かの線が曖昧になりやすい。例示の列挙と組み合わせて補う
口頭の後追い方式
口頭で伝えた情報は、一定期間内に書面(メールを含む)で秘密である旨を知らせた場合に限る
- 受領者の負担は軽い
- 知らせ忘れると、その情報は守られない。日々の運用の中で、誰がいつ送るかを決めておく必要がある
広告代理業務では、例示を列挙したうえで、表示の有無を問わず性質上秘密の情報も含む、とする書き方が多く見られます。例示の列挙は、受領者にとっても、何が秘密かを後から言われる負担を減らします。
秘密情報から外すもの
どのNDAにも、秘密情報に当たらないものを定める除外の条があります。典型は、開示を受けた時点で既に公知であった情報、開示の後に受領者の責任でなく公知となった情報、開示の前から受領者が適法に持っていた情報、秘密保持義務を負わない第三者から適法に得た情報、秘密情報を使わずに独自に作った情報です。これらがないと、公開されている情報まで縛ることになり、受領者の通常の活動を妨げます。
広告代理業務で注意したいのは、「公知」の見極めです。広告主が成果の数字をSNSで公表しても、その元になった詳しい配信データまで公知になるわけではありません。除外に当たることは受領者が立証する、と書く例が多いのは、線が引きにくいからです。
開示できる場合は、除外とは別の条で書く
NDAでよく見られる書き方の乱れが、法令に基づく開示の義務がある情報を、除外事由の一つに入れてしまうものです。除外事由は「その情報は秘密情報ではない」と定める条なので、これに入れると、その情報はそもそも守る対象でなくなります。本来は「秘密情報ではあるが、一定の場合に、必要な範囲で開示できる」と書くべきところです。開示できる場合として、広告代理業務で実務上挙げられることが多いのは次のものです。
- 法令、裁判所や行政機関の命令により開示を求められたとき(できる限り事前に相手に通知し、開示は必要最小限にとどめる)。
- 法令上の守秘義務を負う専門家に、助言を受ける目的で開示するとき。
- 本契約に基づく権利を行使し、又は防御するために、裁判所や調停の機関に提出するとき。
- 広告媒体の運営事業者に対し、業務の遂行に必要な範囲で、アカウントの情報を入力・提出するとき。
最後の媒体への開示は、広告代理業務に特有です。広告の設定は、そもそも媒体の管理画面に入力することで行われるため、「第三者への開示禁止」の文言を字義どおりに読むと、日常の運用が違反になってしまいます。媒体の規約に従って入力することは、開示の禁止の例外であると書いておくのが安全です。
もう一つ、公益通報や行政への申出は、秘密保持の対象にしない、と読めるように書いておく考え方があります。公益通報者保護法は、同法が定める公益通報をした通報者に対し、事業者がそれによって受けた損害の賠償を請求することを認めていません(同法7条)。また、フリーランス法は、業務委託を受ける特定受託事業者が、法に違反する事実を公正取引委員会や中小企業庁長官、厚生労働大臣に申し出ることができると定め(同法6条1項・17条1項)、業務委託事業者が、申出をしたことを理由に取引の停止などの不利益な取扱いをすることを禁じています(同法6条3項、17条3項)。フリーランスの運用者と結ぶ契約では、これらを妨げないと明記する例があります。
認証情報とアカウントの権限:渡し方を決める
認証情報を秘密情報の例に挙げる理由
ID、パスワード、管理画面の情報といった認証情報は、「性質上秘密として扱うべき情報」に当たると読めるはずです。それでも例示に明記するのは、終了後の場面で意味が出るからです。契約が終わった後も、代理店の手元のログイン情報で管理画面に入れる状態が続いたとします。認証情報が秘密情報として明記されていれば、「秘密情報を目的外に使用した」と整理でき、返還・削除の義務の対象にもなります。明記がないと、「渡された情報であって、秘密と言われる覚えはない」という反論の余地が残ります。
IDとパスワードの共有より、個別の権限付与
運用の効率を優先して、1つのIDとパスワードを担当者全員で共有する運用は、実務でもよく見られます。しかし、共有のIDでは、誰が何を操作したのかが記録に残りません。二段階認証を設定している場合は、確認コードが広告主の携帯電話に届き、作業のたびに広告主に連絡が必要になります。こうした理由から、広告主が自分のアカウントの管理者として、代理店の担当者個人を招待し、業務に必要なレベル(閲覧のみ、編集まで、など)の権限を付与する方法が基本とされます。NDAの側では、次のことを書いておきます。
権限の付与から解除までの流れ(NDAに書く事項の例)
- 付与広告主が管理者として、必要な担当者に必要なレベルの権限を付与する。パスワードの共有はしない
- 作業受領者は付与された範囲だけで作業し、第三者にログインさせない。端末の管理を徹底する
- 終了契約の終了、又は広告主の求めがあった日から所定の営業日以内に、権限を解除する
- 報告解除が済んだら、書面(メールを含む)で完了を報告する
媒体の仕様により、権限の解除を広告主しかできない場合があります。その場合は「受領者は解除を求め、広告主が解除する」と書き分けます。
媒体の規約は認証情報の共有について独自の定めを置くことがあり、改定もされます。NDAには「媒体の規約と抵触する場合は媒体の規約を優先する」旨を書いておく例があります。
広告費のカード情報や支払口座も認証情報と同じ扱いです。支払名義と精算の決め方は広告費(媒体費)の負担と精算で扱っています。
再委託、外部ツール、生成AI
広告運用の現場では、受領者がさらに別の人や会社に作業を回す場面があります。バナーの制作、レポートの作成、データの集計などです。再委託の条がないと、渡した時点で違反になるのかが曖昧です。
情報が外部に渡るときの取り決め(チェックリスト)
- 再委託や外部の専門家への開示は、事前に相手の書面(メールを含む)による承諾を得る。
- 承諾を求めるときは、再委託先の名称、再委託する範囲、情報の管理の体制を知らせる。
- 再委託先にも、NDAと同等以上の義務を契約で課し、その行為について受領者が自ら行ったのと同じ責任を負う。
- スプレッドシートの共有リンク、チャットツール、クラウドストレージなど、情報を置く場所を絞り、共有の範囲を必要な人に限定する。
- 生成AIや外部の分析サービスに秘密情報や顧客データを入力するときは、事前に承諾を得る。入力した情報が学習に使われるかも確認する。
- 個人の端末への保存や持出しを禁止するか、許すなら条件を決める。
外部のフリーランスに作業を任せる場合の契約の組み立ては広告運用・営業代行の外注契約で取り上げています。再委託先が元のNDAと同等の義務を負う関係にしておかないと、秘密情報の流れが途中で切れます。
顧客データや個人情報が含まれるとき
広告の配信先の一覧や、問い合わせの履歴のように、個人データが含まれる情報を扱うときは、NDAだけでは足りません。個人情報保護法は、個人データの取扱いを委託する事業者に対し、委託を受けた者への必要かつ適切な監督を求めています(同法25条)。委託に伴って個人データが提供される場合、受け取る側は、同法27条の第三者提供の制限との関係では第三者に当たらないとされています(同条5項1号)。また、個人データの漏えいなど、個人の権利利益を害するおそれが大きい事態が生じたときは、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が求められます(同法26条)。委託を受けた側が、委託元に所定の通知をしたときは、委員会への報告は不要となる定めがあります(同条1項ただし書)。このため、個人データを扱う案件では、NDAに加えて、利用目的の限定、安全管理措置、事故時の通知の役割分担、終了時の返還・削除を定める個人情報の取扱いの条を置く例が多く見られます。
海外の事業者のクラウドや生成AIに個人データを保存・入力する場合は、外国にある第三者への提供の制限(同法28条)の整理も要ります。顧客リストを媒体の配信に取り込む運用も、受領者が広告主の承諾なく行わないと書く例があります。
終了時:返還・削除・権限の解除・存続期間
返還と削除の対象は、渡された原本だけではない
広告代理業務の秘密情報は、渡された資料のほかに、作業の中で次々と派生します。管理画面から書き出したCSV、レポートのスクリーンショット、集計した表、要約のメモ、チャットのやり取りなどです。民法には、準委任契約の受任者は、事務の処理に当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない、という定めがあります(同法646条1項、準委任には656条により委任の規定が準用されます)。ただし、これは「受け取った物」についての定めで、受領者が作った複製や派生資料まで当然に含むとは言い切れません。そのため、NDAには「複製物、派生物、要約、解析資料その他の関連情報」を対象に含めると書き、電子データや記録媒体も含めておきます。
例外:法令による保存とバックアップ
返還・削除の義務には例外もあります。法令で保存が義務づけられている情報や、通常のバックアップに含まれていて、個別に削除することが著しく難しい情報は、必要な期間又は通常の更新で消えるまで保存してよい、とする書き方が見られます。ただし、保存している間も、その情報には秘密保持義務が続くと書くのが通例です。書き忘れると、バックアップが残るだけで違反になります。
権限の解除と完了の報告
広告代理業務のNDAに特有の終了時の義務が、広告媒体におけるアカウントの共有権限やアクセス権の解除です。資料を返しても、管理画面に入れる権限が残っていれば、情報は守られていません。次の流れを条文にしておくと、引継ぎの漏れを防げます。
終了時の手順の例
- 返還・削除秘密情報、複製物、派生物を、開示した側の指示に従って返還又は復元できない方法で削除する
- 権限の解除媒体上の共有権限、招待されたアカウント、連携ツールへのアクセスを解除する
- 共有場所の整理クラウドの共有フォルダ、チャットのチャンネル、共有リンクを閉じる
- 完了の報告返還・削除と解除が済んだことを、書面(メールを含む)で報告する
完了の証明は、証明書の形式を指定する書き方から、メールでの報告で足りるとする書き方まで幅があります。重くしすぎると形骸化します。契約期間の終わり方や解約の手続は広告運用代行・集客支援の契約期間と中途解約と併せて、終了日に何が起きるかを時系列で確認しておくと、抜けが見つかります。
秘密保持義務はいつまで続くか
終了後の存続期間は、NDAの中でも交渉になりやすい点です。一般に見られる設計を整理すると、次のようになります。
| 設計 | 内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| 終了後に一定年数 | 契約終了後2年、3年、5年など | 期間が明確。期間が過ぎれば自由に使えるため、長く守りたい情報には向かない |
| 公知になるまで | 秘密でなくなる日まで | 守る側には手厚い。公知になった日を誰がどう確認するかが争いになりやすい |
| 年数+例外 | 原則は終了後数年。営業秘密や個人データは別にその性質が続く間 | 実務で多い。期間と例外の組合せで、取引に見合った長さにできる |
どの設計でも、存続させる条文の番号を、実際の条番号と一致させる必要があります。
営業秘密は、不正競争防止法で「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」とされています(同法2条6項)。営業秘密を保有する事業者から示された営業秘密を、不正の利益を得る目的で、又は保有者に損害を加える目的で使用・開示する行為は不正競争に当たり(同法2条1項7号)、差止めを請求できます(同法3条1項)。ただし、この規律が及ぶのは、秘密として管理されているなど営業秘密の要件を満たす情報で、しかも不正の目的がある場合です。目的が不正とまでは言えない目的外使用や、営業秘密の要件に届かない情報は、契約の定めで守るほかありません。NDAを結ぶ意味は、この差を埋めることにあります。
受注者のノウハウと、実績の公開
代理店の側にとっては、自分の運用の考え方や手順が、NDAによって「相手の秘密情報」の扱いにされてしまわないことも重要です。著作権法は、著作物を「思想又は感情を創作的に表現したもの」と定めており(同法2条1項1号)、運用の設定の考え方や手順そのものは、表現でなければ著作物として守られにくい面があります。そこで、受領者が業務を通じて得た一般的な知識、経験、技能、手法は、相手の秘密情報を開示しない限り、自由に使えると書く例があります。反対に広告主の側からは、そこに自社のデータが混ざらないよう、線引きを例で示す方が運用しやすくなります。
契約が終わった後に、代理店が実績として広告主の名前や成果を掲載したい場合は、秘密情報の問題ではなく、実績の公開の許諾の問題です。広告主の承諾を条件にし、範囲を決める考え方はLP・バナー・広告文の著作権と実績公開で扱っています。
漏えいの事故と責任:報告・賠償の上限・差止め
事故が起きたときの報告
漏えい、紛失、不正アクセスが起きた場合、またはそのおそれがある場合に、受領者が直ちに相手に報告し、被害の拡大を防ぎ、再発防止の措置をとる、という定めは、多くのNDAに入っています。実務では、報告の期限を「知ったときから24時間以内」のように短く区切る例もありますが、受領者が個人の運用者のときは守れない場面も出ます。夜間や休日の連絡体制まで含めて、現実に守れる期限にします。
賠償の設計:範囲と上限
債務不履行による損害賠償は、民法415条1項に基づき請求でき、請求できる範囲は、通常生ずべき損害が原則で、特別の事情による損害は、当事者が予見すべきだったときに限られます(同法416条)。NDAの賠償条項は、この原則をどこまで広げ、どこで絞るかの合意です。実際に見られる書き方は、大きく次の二つの方向に分かれます。
賠償条項の二つの方向
範囲を広げる型
広告主の側に有利
- 過失の有無を問わず賠償する
- 営業損失、信用の毀損、弁護士費用など、予見できる間接損害も含める
- 受領者にとって負担が青天井になりやすく、個人や小規模な事業者は受けにくい
上限を設ける型
受領者の側に有利
- 直接かつ通常の損害に限る
- 上限を報酬の一定期間分(直近の数か月分、違反の月の報酬など)とする
- 故意又は重大な過失による場合は上限を外す。広告主は、秘密保持の違反を上限の外に置くことを求めることがある
上限を設ける場合に、何を基準にするかで金額が大きく変わります。仮の数字で比べてみましょう。月額の報酬が30万円の運用契約で、上限を「違反が起きた月の報酬額」とすると30万円、「直近3か月分の報酬」とすると90万円、「直近12か月分」とすると360万円です(いずれも報酬額に媒体費を含めない前提の計算例です)。同じ「報酬を基準にする」でも、期間の取り方で12倍の差が出ます。上限が低すぎると広告主は補償を受けられず、高すぎると受領者は引き受けられません。広告費(媒体費)を基準に含めると報酬の何十倍にもなることがあるので、含めるかどうかも明記します。
違約金を定める書き方もあります。民法は、損害賠償の額を予定でき(420条1項)、違約金は賠償額の予定と推定される(同条3項)としています。違約金とは別に損害賠償も請求できるのかを書かないと、後で解釈が割れます。
差止めの規定
漏えいの被害は金銭で回復しにくいため、違反又はそのおそれがあるときに、差止めなどの措置を裁判所に求められることを確認する条を置く例があります。不正競争防止法による差止め(同法3条1項)は営業秘密の場合に限られるので、契約上の根拠を別に用意する位置づけです。
よくある失敗と直し方
次の例は、広告代理業務のNDAで、一般に見られる書き方の乱れと、その整え方です。
書き方の例(一般的な例) NDAの条文でよくある乱れ
法令による開示の位置
除外の条に入れると、その情報は秘密情報でなくなり、通知も範囲の限定も要らないと読めてしまいます。
条番号の引用
存続させたい条がどれかが曖昧になり、終了後の義務の範囲が争われます。条を入れ替えたり挿入したりした後に、特に起きやすい誤りです。
複製の全面禁止
レポートの作成やデータの集計は、複製と加工なしにはできません。実務と合わない禁止は、最初から違反を前提とした条文になります。
秘密情報の定義
受領者が何を守ればよいか分からず、争いになったときに、秘密であることを示しにくくなります。
終了時の義務
資料を返しても、管理画面に入れる権限が残れば、情報は守られていません。
ヒヤリングで確認すること
NDAを書く前に、取引の実態を聞いておくと、条文の過不足が減ります。確認する問いと、その理由を挙げます。
確認の問いと理由広告代理業務のNDAを書く前の確認事項
どちらがどの情報を相手に渡しますか。双方向ですか。
一方向なら条文が簡単になります。代理店が自社のノウハウを見せる場面があるなら、相互型にして、双方が守られる形にします。
渡す情報に、広告アカウントのログイン情報や顧客リストは含まれますか。
含まれる場合は、認証情報の扱い、個人データの条、終了時の権限の解除が必要になります。含まれなければ、その分を軽くできます。
ログインは、個別の権限付与ですか。IDとパスワードを共有しますか。
共有する運用なら、誰が操作したかを確認できないため、記録の取り方と、終了時のパスワードの変更を決めておきます。
作業を別の人や会社に回しますか。回すなら誰ですか。
再委託の承諾の手続と、再委託先の義務の内容を決めるためです。個人のフリーランスのときは、別途の契約も要ります。
秘密を守る期間は何年を想定しますか。長く守りたい情報はありますか。
一律に年数を決めると、古くなっても重要な情報が守られなくなります。例外を置く場合は、その対象を決めます。
万一の漏えいで、報酬の何か月分までが適切ですか。
賠償の上限を決める材料です。
確認の内容は、案件ごとに入れ替えます。
条文例と、起きがちなこと
以下は、広告代理業務のNDAを想定して新たに書き起こした条文の例です。双方向型を前提にし、「開示当事者」が秘密情報を開示し、「受領当事者」が受け取る関係で書いています。そのまま使うのではなく、案件の実態に合わせて調整してください。
条文例秘密情報の定義と、秘密情報に当たらない情報
- 本契約において「秘密情報」とは、開示当事者が受領当事者に対し、本契約の目的に関連して、書面、口頭、電子データその他の形式により開示した情報のうち、次の各号に掲げるもの及びその性質上秘密として取り扱うべきことが明らかなものをいう。表示の有無は問わない。(1)広告アカウントの設定内容、運用実績及び付与された権限に関する情報(2)広告の配信に関するデータ及びそれをもとに作成されたレポート(3)顧客情報、見込み客の情報及び配信先の情報(4)ID、パスワードその他の認証情報及び広告費の支払手段に関する情報(5)事業計画、予算、価格及び販売の戦略に関する情報(6)前各号の複製物、要約その他の派生情報
- 次の各号のいずれかに該当する情報は、秘密情報に含まれない。ただし、該当することは受領当事者が立証する。(1)開示を受けた時に既に公知であった情報(2)開示を受けた後に、受領当事者の責めに帰すべき事由によらず公知となった情報(3)開示を受ける前から受領当事者が適法に保有していた情報(4)秘密保持義務を負わない第三者から適法に取得した情報(5)秘密情報によらず独自に作成した情報
- 受領当事者は、法令、裁判所又は行政機関の命令により秘密情報の開示を求められたときは、法令上許される範囲で、あらかじめ開示当事者に通知し、開示の範囲を必要最小限にとどめる。広告媒体の運営事業者に対し、業務の遂行に必要な範囲で、その媒体の規約に従って入力する場合も、前項の定めにかかわらず、開示に当たらない。
一般的な考え方に基づく例です。3項は、除外の条とは別に置くか、独立した条にします。
条文例認証情報と権限の取扱い
- 受領当事者は、広告アカウント、解析ツールその他の管理画面について、開示当事者から付与された権限を、本契約の目的の範囲でのみ使用し、第三者にログインさせてはならない。
- 認証情報は、開示当事者が付与した個別の権限によって共有することを原則とし、IDとパスワードを共有する場合は、開示当事者の事前の承諾を得る。
- 受領当事者は、本契約又は業務委託契約の終了日から[ ]営業日以内に、自己の担当者に付与された権限を解除し、又は開示当事者に解除を求め、解除が完了したことを書面(電子メールを含む。)で報告する。
- 広告媒体の規約が前各項と抵触するときは、媒体の規約を優先する。
[ ]の営業日数は、権限の解除に必要な手順に合わせて決めます。
よくあるご質問
広告代理業務のNDAには、何を秘密情報として書けばよいですか?
広告アカウントの設定・運用実績・権限、配信データ(コンバージョン数、広告費、CPA、キーワードなど)、顧客情報、認証情報、予算や戦略などを例示し、そのうえで性質上秘密として扱うべき情報も含めるのが一般的です。表示の有無を問わないと書き、派生した資料も含めておきます。
契約が終わったら、広告アカウントのIDとパスワードはどうすべきですか?
認証情報は返還又は削除し、媒体上の共有権限やアクセス権は解除します。解除が済んだら書面(メールを含む)で報告する、と契約に書いておくと、権限が残ったままになる事態を防げます。媒体の仕様で広告主しか解除できないときは、受領者が解除を求める形にします。
法令に基づく開示は、秘密情報から除外すればよいですか?
除外の条に入れると、その情報が秘密でなくなると読めてしまうため、別の条で「必要最小限の範囲で、事前に通知して開示できる」と書く方が整理しやすくなります。専門家への開示や紛争解決のための提出も同じ条にまとめることが多いです。
秘密保持義務は契約終了後、何年続けるのがよいですか?
契約終了後に数年とする例が多く、営業秘密や個人データは別に、その性質が続く間は守る例外を置く設計がよく見られます。年数は取引の期間と情報の重要性で決め、存続させる条の番号が実際の条と一致しているかも確認します。
フリーランスの運用者に作業を任せるときも、NDAは必要ですか?
必要です。再委託を受ける側が、元のNDAと同等以上の義務を負う関係にしておかないと、秘密情報の流れが途中で切れます。ただし、フリーランスが法に基づく申出をすることを妨げるように読める文言は避けます。
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本ページは一般的な情報提供です。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月22日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 表示対策(消費者庁) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)