このページの要点
- 利益・粗利に連動する報酬は、引く費用の範囲、月次の計算書、異議の期間、根拠の資料の開示の範囲を決める。
- 名刺・アポ・成約・粗利の多段の報酬は、段階ごとに確定の時点を決め、取り消されたときの戻しの方法を書く。
- 経費は通常要する費用を営業員、通常を超える費用は事前承認で委託者の負担と分け、時給制の契約では指揮命令ではない旨の条と運用をそろえる(労働基準法9条)。
- 商材ごとの勧誘の規律(特定商取引法)は名宛人が販売業者のまま。遵守事項・禁止行為・名義の表示・権限の範囲として営業員に引き継ぐ。
結論:歩合制の営業委託は「報酬の基礎を見られるか」「取り消されたら戻すか」「雇用に見えないか」を決める
営業を個人に任せる契約は、会社の営業代行(営業代行・クロージング委託の契約書)と違い、相手が一人で、報酬が小さな単位に刻まれ、機材も通信費も自分で用意して動く関係になりやすい契約です。報酬が名刺交換1件、アポイント1件、成約1件、粗利の一定割合のように刻まれているほど、数え方と確定の時点が曖昧なままだと、月末の精算のたびに「その1件は数えるのか」が争点になります。個人・小規模事業者への営業委託の契約書について、先に結論を3点にまとめます。
- 利益や粗利に連動する報酬では、計算の基礎(売上から何を引くか)と、営業員が計算の根拠をどこまで見られるかを書く。「委託者が合理的に決める」だけでは、営業員は検算できない。
- 名刺・アポ・成約・粗利を組み合わせる多段の報酬では、各段階が「何をもって1件とするか」「いつ確定するか」「取り消されたら戻すか」を段階ごとに決める。
- 時給制や推奨の時間帯を置く契約では、「指揮命令ではない」と書くだけでは足りない。条文の書き方と現場の運用をそろえ、報酬が時間ではなく成果に結びつく形にする。
このページが扱うのは、営業員が個人(個人事業主、または一人で事業をしている人)で、委託する側が会社の場合です。報酬の「型」の一般的な比較は報酬・手数料の決め方、経費の立替は広告費の負担と精算、フリーランス法と指揮命令をしない書き方の全体像は外部パートナーとの契約、商材ごとの勧誘のルールは勧誘のルールと特定商取引法で扱っています。ここでは、それらと重ならない、個人に任せる歩合制ならではの部分に絞ります。なお、営業員が労働者に当たるかどうかの判断は、契約書の書き方に関わる範囲にとどめます。
個人に任せる歩合制の報酬は、4つの組み立てに分かれる
一般に、個人(または小規模な事業者)に営業を任せる契約の報酬は、次の4つの組み立てのどれか、またはその組合せになります。どの組み立てを選ぶかで、揉めやすい場所が変わります。
報酬の組み立て4つと、揉めやすい場所
活動単位+成約の多段型
固定の月額に加えて、名刺交換・アポイント・成約など、活動の段階ごとに報酬を積み上げる
- 小さな単位ごとに上限(同じ日に何件まで、1週間に何件まで)を置く例がある
- 揉めやすいのは「1件の数え方」と、粗利の計算
- 営業員は件数を増やす動機が強く働く
時給制の架電・取次ぎ型
電話をかけて見込み客に取り次ぐ作業に、時間単位で報酬を払う
- 成果を保証しない旨を置くことが多い
- 委託者が「有効」と認めたものだけを数える設計は、営業員に不利になりやすい
- 時間で払う形は、雇用に見える方向に働く
利益・粗利の割合型
会社の営業利益や粗利のうち一定割合を、営業員の報酬とする
- 計算の基礎を決めるのは多くの場合、会社の側
- 営業員が根拠を見られないと、算定の誤りに気づけない
- 経費をどこまで引くかで、報酬が大きく変わる
売上の定率・契約1件の定額型
獲得した契約に定額、または売上の一定の割合を払う
- 報酬の確定を、入金やクーリング・オフの期間の経過に連動させる例がある
- 取消しになった契約の報酬の戻しをどうするか
- 訪問点検の営業の委託は別のページで扱っている
活動単位の報酬は、細かい単位に刻むほど数えやすくなる反面、件数を水増しする動機も生みます。固定の月額に加えて、名刺交換、有効なアポイント、新規の取引先との契約の成立といった段階ごとに定額を置き、さらに成功報酬を重ねる設計もあります。件数の上限の置き方と、有効なアポイントの定義はテレアポ代行の契約書で比べています。上限は営業員の収入の天井でもありますが、委託者にとっては、件数の積み上げだけで固定費が膨らむことを防ぐ仕組みです。
民法の原則も確認しておきます。営業の委託は、法律行為ではない事務の委託(準委任)か、契約の取次ぎを含む委任として扱われることが多く、受任者は特約がなければ報酬を請求できず(民法648条1項)、報酬を受けるべき場合も、委任事務を履行した後でなければ請求できません(同条2項本文)。委任が履行の中途で終了したときは、すでにした履行の割合に応じて報酬を請求できます(同条3項2号)。つまり、歩合制の報酬は、契約書に「何を何件こなしたら、いくら」と書いてはじめて請求の根拠になります。書き方が曖昧なほど、請求の根拠そのものが争われます。
報酬の算定基礎の開示と、営業員の確認権
報酬が粗利や営業利益に連動する契約で最も大きな論点は、計算を誰が、どの資料で行い、営業員がそれを検算できるかです。設計の違いを並べます。
| 論点 | 委託者が一方的に決める設計 | 営業員が確認できる設計 |
|---|---|---|
| 粗利の定義 | 売上金額(税抜)から、案件に要した費用を引いた額。費用の範囲は広く、「その他一切の費用」を含む | 引く費用を列挙し、「その他」を置く場合は、委託者が事前に書面で示して営業員が確認した費用に限る |
| 算定の主体 | 委託者が自社の基準に従って行う。明らかに不合理である場合を除き、算定結果は最終的なものとする | 委託者が計算し、営業員が異議を述べられる期間を置く。期間内に異議がなければ承認したものとみなす |
| 資料の開示 | 原価の情報、取引条件、顧客情報などの営業秘密に当たる情報は、営業員は開示を請求できない。疑義があっても、異議を述べるときは合理的な根拠を示す | 月次の計算書に、売上、控除した費用、報酬の額を載せて交付する。根拠の資料は、営業員が求めたときに、必要な範囲で示す |
| 誤りが分かったとき | — | 計算に誤りがあると後で分かったときは、差額を調整する |
左の欄は、利益の算定を委託者に委ねる場合によくある書き方、右の欄は、営業員の側が検算できる設計の一例です。
左の欄の書き方は、委託者にとっては、原価や取引先の条件という営業の秘密を守れる利点があります。一方、営業員の側から見ると、報酬の額を決める数字を一度も見ないまま、振り込まれた額を受け入れる形になります。算定の結果が「明らかに不合理である場合を除いて最終的」という書き方では、不合理さを示すために必要な資料を請求できないので、実際には争う手段がほとんどありません。
委託者の側にも、確認権を認めた方がよい理由があります。営業員が算定を信用できないと、報酬に関する疑念が、営業の手を止める理由や、別の会社に顧客を持っていく動機になります。費用を引くかどうかを事前の承認制にする設計もあります。後から「その費用は引けない」と争うことも、「その費用は引くべきだった」と争うことも減らせます(広告費を売上から引く場合の書き方は報酬・手数料の決め方で取り上げています)。
条文例算定の根拠の開示(営業員が個人の場合の例)
- 委託者は、毎月末日を締めとして、当該月に営業員の営業活動が主要な契機となって成立した案件ごとに、売上金額(消費税を除く。)、控除した費用の項目と金額、報酬の額を記載した計算書を、翌月の10日までに営業員に交付する。
- 営業員は、計算書の交付を受けた日から10日以内に、具体的な理由を付して異議を述べることができる。期間内に異議がなかったときは、計算書の記載のとおり承認したものとみなす。
- 前項の異議があったときは、委託者は、営業員の求めに応じ、控除した費用の根拠となる資料を、営業員が計算の正否を確認するために必要な範囲で示す。委託者は、取引先の名称その他の営業秘密に当たる部分を除いて示すことができる。
- 計算書の内容に誤りがあることが後日判明したときは、委託者及び営業員は協議のうえ、速やかに差額を精算する。
異議の期間は、営業員が計算書を検討できる長さにします。短すぎる期間を置いて「みなし承認」だけを使うと、営業員が実際には確認する時間を持てなかったと争われるおそれがあります。
確認権を認めることと、営業秘密を守ることは両立します。取引先の名称や仕入れ価格そのものを渡さなくても、控除した費用の項目と金額、案件ごとの売上と粗利の額を示せば、営業員は計算の流れを確かめられます。秘密保持の義務は、営業員に課す義務として別に置きます。営業の過程で知った情報が営業秘密に当たるかどうかは、秘密として管理されていることが前提です(不正競争防止法2条6項)。開示する資料に「秘密情報」と表示し、使う目的を限る定めを置いておくと、委託者は安心して資料を出せます。
名刺・アポイント・成約の多段の報酬と、取り消されたときの戻し
多段の報酬は、前の段階が後の段階の条件になっているかどうかで設計が決まります。名刺交換の報酬は、名刺を取得した時点では確定せず、取得した情報が本物で、委託者が営業の対象として有効と確認した時点で確定する、と定める設計があります。アポイントの報酬は、アポイントを設定した時点ではなく、委託者または委託者が指定した人が、見込み客と実際に面談またはオンライン面談、電話商談など実質的な商談を行った時点で確定する、と定めることがあります。契約成立の報酬は契約が成立した時点で、粗利に連動する成功報酬は入金を確認した時点で確定します。
多段の報酬が確定する時点(例)
- 名刺交換情報が本物で、委託者が営業の対象として有効と確認した時点
- アポイント実質的な商談が行われた時点(キャンセル、無断欠席、実質的な商談がないときは対象外)
- 新規契約の成立新規の取引先と契約が成立した時点。同じ取引先で重ねて払うかどうかも決める
- 成功報酬委託者が案件の入金を確認した時点。入金の後、一定の営業日以内に払う
段階ごとに確定の時点が違うので、月末の精算書は報酬の種類ごとに分けて書くと、あとで確認しやすくなります。
確定の時点を前の段階より後ろにずらしていく設計には、理由があります。名刺やアポイントの時点で報酬を払い切ってしまうと、契約が成立しなかったときに、委託者が負担だけを背負います。反対に、すべてを入金後にすると、営業員は売上が立つまでの長い間、無報酬で動くことになります。固定の月額と小さな単位の報酬を組み合わせるのは、この二つの偏りを調整する方法です。
報酬が発生しない場合を一覧にしておくことも、多段の報酬の特徴です。アポイントのキャンセルや無断欠席、実質的な商談が行われなかった場合、既存の顧客や過去に接触の履歴がある顧客の場合、営業員の関与が軽微で契約の成立との間に相当の因果関係が認められない場合、虚偽や不正、不適切な手段で取得された成果の場合、取引先が倒産して入金を受けられない場合などを列挙する設計がよく見られます。ここで大事なのは、これらの場合にも、営業活動と契約の成立の間に相当の因果関係が認められるときは例外とする、という一文です。例外を置かないと、委託者が「関与が軽微だった」と一方的に言えば、報酬を払わずに済んでしまうからです。
書き方の例(一般的な例) 成功報酬の発生の条件
「主要な契機」の判断者
関与が主要かどうかを委託者が一人で判断する形は、営業員の側から見ると報酬の有無を相手に委ねる形です。客観的に認められるかどうかで判断する形に改めると、争われたときに、当時の記録(商談の履歴、報告、メールのやり取り)で確かめられます。
取り消されたときの戻しも、多段の報酬では欠かせない論点です。名刺交換やアポイントの報酬は、すでに払った後で「有効ではなかった」と分かることがあります。契約成立の報酬と成功報酬は、契約が取り消され、または解除されると、払った報酬の根拠が失われます。戻しの方法は、次の報酬から差し引く(相殺する)、営業員が返金する、のどちらかです。相殺を使う場合は、差し引く前に理由と金額を書面で通知し、営業員が内容を確認できるようにしておきます。営業員が契約を終えた後で戻しが必要になる場合に備え、終了後の返金の期限も決めておきます。
報酬を確定させる時点を、消費者が契約を取り消せる期間(クーリング・オフの期間)の経過に連動させる設計は、取消しになる確率の高い商材では、戻しの手間を省く効果があります。この考え方は営業代行・クロージング委託の契約書で、報酬の確定要件として詳しく取り上げています。
経費の負担:営業員の自己負担と、委託者が持つ費用の線引き
個人の営業員にとって、経費の負担は報酬の実質的な手取りを左右します。民法には、受任者が委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に償還を請求できること(650条1項)、委任事務の処理に費用を要するときは、受任者の請求により前払をしなければならないこと(649条)が定められています。ただし、これらは契約で別の定めを置くことを妨げません。実務では、営業員が負担する費用と、委託者が持つ費用をはっきり分けて書くのが普通です。
| 費用 | 営業員の負担 | 委託者の負担 |
|---|---|---|
| 営業の機材(電話、パソコン、タブレット、通信環境) | 営業員が準備する。自己の費用と責任で行う | — |
| 通信費、通常の交通費、飲食費 | 営業員の負担(通常要する費用) | — |
| 遠方への出張の交通費 | — | 委託者が事前に書面または電磁的方法で承認した場合に限り、委託者が負担する |
| 交流会、イベントの参加費 | — | 事前の承認を得たものに限り、参加時間に応じた上限の額まで委託者が負担する |
| 宿泊費その他特別な費用 | — | 事前の承認を得た場合に限り、委託者が負担する |
| 架電に要する通話料(時給制の架電の委託) | — | 電話の通信費は委託者が負担し、その他の機材と通信環境は営業員が負担する |
費用の請求には、領収書などの証憑を添える。証憑がないときは、委託者は支払を拒める。事前の承認がない費用は、緊急でやむを得ない事情があり、事後すぐに承認を得たときを除いて、委託者は支払う義務がない、と定める方法がある。
表のとおり、費用の負担は「通常要する費用は営業員」「通常を超える費用は事前承認があれば委託者」の二層になっています。承認の方法を「書面または電磁的方法」と書いておけば、チャットやメールのやり取りでも承認の記録が残ります。承認の記録が残らないまま、営業員が先に費用を使い、あとで請求する場面が最も多い争いのもとです。
上限を置くことにも意味があります。イベントや交流会の参加費は、参加時間が短ければ低い上限、1日参加なら高い上限、と段階をつける方法があります。営業員が参加するかどうかを決めるときに、会社が持つ上限額が分かっていれば、自分の負担を見積もれます。会社の側も、上限の範囲なら個別に承認を取る手間が省けます。
報酬との関係にも気をつけます。経費を引いたうえで粗利を計算する契約では、営業員の経費が粗利の計算に入るのか、粗利とは別に精算するのかを分けて書きます。入れ忘れると、同じ経費が二度控除されたり、まったく控除されなかったりします。消費税については、報酬が税別か税込かだけを明記し、金額の計算方法や納税の扱いはこのページでは扱いません。
時給制・推奨の時間帯・報告と、「指揮命令ではない」条項の限界
営業を個人に任せる契約で、契約書の見かけと実態のずれが問題になりやすいのは、時給制の架電や、稼働の時間の定めがある契約です。労働基準法9条は、「労働者」を、事業または事務所に使用される者で、賃金を支払われる者と定めています。労働契約法2条1項も、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者を労働者としています。契約書の題名が「業務委託」でも、実態が使用され賃金を支払われる関係なら、労働者として扱われる可能性があります。判断は個別の事情の総合で、契約書の文言だけでは決まりません。
一般に、判断では、仕事の依頼に応じるかどうかを営業員が自分で決められるか、仕事の進め方や時間・場所について具体的な指示を受けているか、他の人に代わってもらうことができるか、機材を自分で用意しているか、報酬が時間に対する支払いの性格か成果に対する支払いの性格か、といった事情が見られると言われます。このページで扱うのは、判断そのものではなく、契約書にどう書くかです。書き方を整理します。
| 契約書の書き方(一般的な例) | 確認したい実態 |
|---|---|
| 業務の遂行の方法、時間、場所などについて、委託者は具体的な指揮命令をしない。営業員は独立した事業者として、自己の裁量と責任で業務を行う | 実際に、日々のやり方に細かな指示を出していないか。指示を出さない前提で、成果の確認の方法を組み立てているか |
| マニュアルやトークスクリプトは「参考基準」で、指揮命令ではない(時給制の架電の委託) | トークスクリプトの逸脱を、実際に注意していないか。参考として渡す資料と、守らなければならない法令上の説明事項を分けているか |
| 稼働の時間は営業員の裁量としつつ、午後や夜の特定の時間帯の稼働を「推奨」する | 推奨の時間帯に稼働しない営業員を、実際に不利に扱っていないか。電話がつながりやすい時間帯という理由の説明が、記録に残っているか |
| 稼働の報告や委託者からの指示は、労務管理または指揮命令を構成しない | 報告の頻度や項目が、勤務時間の管理のようになっていないか。報告の目的を「進捗の確認」と書いた場合、その目的に必要な項目だけを求めているか |
| アポ数、架電数、成果率などを委託者が総合的に判断して解除できる | 成績の基準が事前に示されているか。基準が不明確なまま解除を使うと、不当な扱いと受け取られやすい |
表の左欄は、時給制の架電の委託や、個人に営業を委託する契約でよく見られる書き方を整理しています。実態が雇用にあたるかどうかは、個別の事情で判断されます。
表の最後の例のように、時給制で、成績が悪ければ解除できると書く契約は、委託者にとっては成績の管理の手段になりますが、営業員から見ると、成績という成果に責任を負うという重い義務です。時給制は時間に対する支払いの性格が強く、成績不振による解除は成果に対する責任の性格が強いので、二つが同じ契約に入っていると、報酬が何に対する対価なのかが分かりにくくなります。報酬を時間で払うのか、成果で払うのかを決め、解除の事由もそれに合わせると、契約の性格がそろいます。
書き方で実態に近づける工夫も、いくつかあります。個別の案件ごとに受けるかどうかを営業員が決められると明記すること、営業員が他の会社の仕事も同時に受けられる非独占の関係であると明記すること(営業の対象について独占的な権利を与えないという定めと対になる)、委託者の承諾を得れば再委託ができると明記すること、営業員が自分の機材と費用で業務を行うと明記することです。これらは書くだけでなく、実際の運用が合っていなければ意味がありません。契約書に「裁量」と書いておきながら、毎日の始業の連絡と終業の報告を義務づけている、という状況が最も典型的なずれです。
報告の定め方にも一工夫あります。営業活動の内容や進捗を原則として週に1回報告する、具体的な日時は営業員の裁量と業務の状況に応じて柔軟に調整できる、報告と協議は進捗の確認と成果の向上を目的としたもので、指揮命令や労務管理を目的としない、と書く方法があります。報告を求めること自体は、委託者が成果を確認するために必要です。報告の目的と頻度を、業務の性質に見合った範囲に限ることがポイントです。
営業員が、従業員を使わずに一人で事業を行う個人なら、フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の「特定受託事業者」に当たります(同法2条1項1号)。委託者が事業者として業務委託をする場合は、給付の内容、報酬の額、支払期日などを書面または電磁的方法で直ちに明示する義務があり(同法3条1項)、委託者が従業員を使用する場合などには、支払期日の定め方にも制限があります(同法4条1項)。この二つの義務の中身は外部パートナーとの契約・フリーランス法で整理しています。歩合制の報酬は、月ごとの計算が終わってから払う形になりやすいので、計算書の交付の期限と支払期日をあわせて設計します。
商材ごとの勧誘のルールを、個人の営業員に引き継ぐ書き方
通信回線、住宅設備、保険、健康食品など、商材ごとに勧誘のルールが決まっている営業を個人に任せるとき、委託者は、自分が守る義務を営業員にどう引き継ぐかを契約に書く必要があります。ここでは特定商取引法を例にします。
特定商取引法の訪問販売、電話勧誘販売の規律は、多くが「販売業者又は役務提供事業者」を名宛人としています。たとえば、訪問販売では、勧誘に先立つ氏名等の明示(3条)、契約を締結しない旨の意思を表示した者への勧誘の禁止(3条の2第2項)、不実の告知や威迫による困惑の禁止(6条1項、3項)があります。電話勧誘販売にも、氏名等の告知(16条)、契約を締結しない旨の意思を表示した者への勧誘の禁止(17条)、不実の告知や威迫による困惑の禁止(21条1項、3項)があります。規律の中身と取引の類型の分け方は勧誘のルールと特定商取引法で取り上げているので、ここでは引継ぎの書き方に絞ります。
条文の名宛人は販売業者・役務提供事業者です。営業を個人に任せても、委託者がその地位を失うわけではなく、営業員が現場で行った勧誘の責任は、まず委託者に向かいます。だから、営業員との契約には、委託者が守るべき規律を営業員の行動として引き継ぐ条項が必要です。一般的な書き方は、次の4点です。
| 条項 | 内容 |
|---|---|
| 遵守する法令と禁止行為 | 守る法令を特定し(委託者が個別に指示した法令を守る、といった曖昧な書き方にしない)、断った相手への再度の勧誘など、禁止行為を商材に合わせて具体的に書く。書き方の例は勧誘のルールと特定商取引法の訪問販売の項にある |
| 名義の表示 | 委託者の名称やロゴを使って営業するときは、自分が委託者の従業員や代理人ではない業務委託者であると、必要に応じて表示または説明する。営業員が委託者の従業員だと誤認させない |
| 権限の範囲 | 契約の条件の決定、見積りの確定、契約の締結、価格の決定など、委託者の意思決定を伴う行為は営業員の業務に含まない。委託者の書面による事前の承諾なく、委託者を代理しない |
| 違反したとき | 重大な違反は即時解除の事由とし、報酬を留保または減額できるようにする。留保や減額の前に、通知と弁明の機会を置く |
いずれも、個人または小規模な事業者に営業を委託する契約でよく見られる条項。商材が決まっている契約ほど、禁止行為は具体的に書く。
この表のうち、とくに「名義の表示」と「権限の範囲」は、表裏の関係にあります。営業員が委託者の名前で動くなら、相手方は委託者の人間だと受け取ります。そのとき営業員が価格や条件を口にすれば、委託者が約束したと受け取られます。「営業員は条件を決める権限を持たない」と契約に書いても、相手方に伝わっていなければ意味がありません。名刺や口頭の説明で、立場を明らかにする運用を定めておきます。
営業の対象が事業者か消費者かでも、適用される規律は変わります。営業員が個人でも、見込み客が事業者なら特定商取引法の多くの規定が適用されないことがあります。その整理は勧誘のルールと特定商取引法で詳しく取り上げています。電話での架電に絞った契約(有効なアポの定義、リストの扱い、架電の記録)はテレアポ代行の契約書で扱っています。
個人情報の扱いは、営業員が個人の場合にとくに目配りが要ります。営業員は、見込み客や顧客の個人情報を手元の端末に保存して動くからです。契約には、目的外の利用と第三者への提供の禁止、事故があったときの報告、取扱状況の報告、契約の終了時の返還または復元できない形での削除と完了の報告を書きます。個人情報取扱事業者は、個人データの取扱いを委託するときは、委託先に対して必要かつ適切な監督を行わなければなりません(個人情報保護法25条)。委託に伴う提供は、第三者への提供の制限の対象外ですが(同法27条5項1号)、委託元の監督義務は残ります。営業員が自宅で書類を保管する、私物の端末を使う、といった実態があるなら、その保管と廃棄の方法まで書いておくと、監督の根拠になります(安全管理の定め方の例は勧誘のルールと特定商取引法)。
起きがちなことと、契約書での備え
契約前に確かめたいこと
- 報酬の組み立て(固定、活動単位、成約、粗利)のうち、どれを使うか。各段階の確定の時点と、数え方の上限・重複の除外を書いたか。
- 粗利などの計算の基礎、引く費用の範囲、月次の計算書の交付、異議の期間、根拠の資料の開示の範囲を書いたか。
- 成功報酬の発生の条件(主要な契機など)の判断を、客観的に確かめられる形にしたか。
- 取消し・解除のときの戻しの方法と、終了後の返金の期限を決めたか。
- 営業員が負担する費用、委託者が負担する費用、事前承認の方法、上限額、証憑を決めたか。
- 指揮命令をしない旨の条項と、実際の運用(報告の頻度、稼働の指定)が合っているか。
- 商材ごとの勧誘の規律、名義の表示、権限の範囲、個人情報の扱いを、営業員の義務として書いたか。
- 営業員が従業員を使わない個人なら、フリーランス法の明示と支払期日の定めを入れたか。
よくあるご質問
個人の営業員に任せる歩合制の契約は、準委任と請負のどちらですか?
営業は、契約の成立という結果を約束するものではなく、見込み客に接触して商談の機会をつくる事務の委託として、準委任で書かれることが多い契約です。民法の原則では、受任者は特約がなければ報酬を請求できず(648条1項)、報酬は委任事務を履行した後に請求できます(同条2項)。歩合制の報酬は、何を何件こなしたらいくら、という形で契約書に書いてはじめて請求の根拠になります。
粗利に連動する報酬の計算を、委託者が決めてよいですか?
委託者が計算すること自体は一般的ですが、営業員が検算できる設計がないと、算定を争う手段がなくなります。控除する費用の範囲を列挙する、月次の計算書を交付する、異議を述べられる期間を置く、根拠の資料を必要な範囲で示す、といった定めを組み合わせます。営業秘密は、示す資料を限り、秘密保持の義務を営業員に課すことで守れます。
成約の「主要な契機」を、委託者が判断すると書いてもよいですか?
書くことはできますが、営業員の報酬の有無を委託者の判断に委ねる形になり、争われやすくなります。「客観的に認められる場合」と書き、関与が軽微な場合も相当の因果関係があれば報酬を払うと明記する方法が考えられます。判断の資料となる記録(商談の履歴、報告)を残す運用とあわせて定めます。
時給制で営業の電話をかけてもらうと、雇用になりますか?
契約書の題名では決まりません。労働基準法9条は、事業に使用される者で賃金を支払われる者を労働者としており、実態が使用され賃金を支払われる関係なら、労働者として扱われる可能性があります。個別の事情で判断されるため、契約書には、案件を受けるかどうかの自由、進め方の裁量、非独占、機材の自己負担などを書き、運用でも守ることが前提です。
商材ごとの勧誘のルールは、営業員に守らせるだけで足りますか?
足りません。特定商取引法の訪問販売や電話勧誘販売の規律は、販売業者または役務提供事業者が名宛人で、委託者の責任は残ります。営業員との契約で、遵守する法令、禁止行為、名義の表示、権限の範囲、重大な違反の即時解除と報酬の留保を書くとともに、現場の運用を委託者が確認できるようにします。
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本ページは一般的な情報提供です。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月22日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 表示対策(消費者庁) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)