このページの要点
- 投稿の単価と成果報酬を重ねるときは、成果の定義、計測の手段、キャンセル・返品の除外、控除する費用を「別途合意」のままにしない。
- 再生数やフォロワー数は、管理画面のデータの提出と、虚偽があったときの返還・控除・解除を書く。競合排除と直接契約の禁止は、範囲・期間・対価・違約金を絞る。
- 金銭に限らず、商品の提供や値引きも対価になり得る。ステマ告示の運用基準に沿い、広告の文言・位置・公開前の承認・是正を発注書に書く。
- 化粧品・医薬部外品では、医薬関係者等の推せんの広告が制限される。専門家の肩書や監修は、商品の区分に応じて確認し、掲載の媒体と期間を限る。
結論:発注者が契約書で決めるのは、報酬・数字・制限・表示・専門家の五つ
インフルエンサーや専門家に、商品やサービスの紹介を発注する契約は、広告運用代行や制作物の契約とは性格が違います。成果物が、相手方である個人の名前と信用で世に出るからです。発注する側(広告主、またはその代理店)が契約書で決めておくことは、突き詰めると次の五つに整理できます。
- 報酬:投稿1本あたりの単価と、誘導・成約に連動する成果報酬をどう組み合わせ、何を「成果」として数えるか。
- 数字:再生数・フォロワー数・クリック数などの報告が事実と違っていたとき、どう是正し、どう精算するか。
- 制限:競合する商品の宣伝を、いつまで、どの範囲で控えてもらうか。逆に、仲介を受けて知り合ったインフルエンサーと、仲介者を通さずに直接契約してよいか。
- 表示:投稿が広告であることを、誰が、どの形で明示するか。商品の提供や値引きと引き換えに投稿してもらう場合も含みます。
- 専門家:医師・薬剤師・研究者などの肩書や監修を、広告にどこまで使えるか。
この類型の契約には、販売支援の一環でインフルエンサーを活用するもの、宣伝を委託するもの、値引きや商品の提供と引き換えに広告への協力を求めるもの、専門家の掲載を受けるものなど、さまざまな形があります。このページでは、そうした契約で論点になりやすい条項を、一般論として、発注する側の目線で順に取り上げます。
隣のページとの切り分けも先に書いておきます。景品表示法やステマ告示の名宛人、薬機法の「何人も」規制、広告主と受注者の責任分担の組み立て方は広告表示の責任分担で扱っています。報酬の一般的な型や成果の定義は報酬・手数料の決め方、外部の個人に仕事を出すときのフリーランス法の組み込みは外注・フリーランス法、口コミの依頼と報酬はMEO・SEO・口コミの契約にあります。このページは、インフルエンサーや専門家を「起用して発信してもらう」ときに固有の条項に絞ります。
報酬の組み立て:投稿単価と誘導成果報酬を重ねるとき
インフルエンサーへの報酬は、大きく三つの型に分けられます。どの型でも、「何をもって1本と数えるか」「何をもって成果と数えるか」を決めておかないと、請求の段階で食い違いやすくなります。
報酬の三つの型
固定単価型
投稿1本いくら
- 投稿の本数・長さ・掲載期間で金額が決まる。
- 成果が出なくても報酬は発生するので、「成果を保証しない」旨の整理が前提になる。
- 再生数などの数字は報酬に連動させず、報告の対象にとどめることが多い。
成果連動型
誘導・成約に応じて
- 専用のリンクやコードを経由した購入・申込み・応募などを成果とする。
- 成果の定義、計測の手段、キャンセル・返品の扱いが最重要になる。
- 投稿の内容の自由度は、成果の出方に影響する。
併用型
単価+成果報酬
- 最低限の報酬を単価で保証し、上乗せを成果で払う。
- 単価の部分を「成果報酬の前払い」とするのか、別建ての報酬とするのかを書く。
- 成果報酬が単価を下回る月の扱いが争点になりやすい。
成果連動型と併用型で決めておく項目のうち、インフルエンサーの起用で特に食い違いやすいものを、表に整理します。成果の定義、キャンセル・返品の除外、控除する費用の書き方は、報酬のページで扱っているので省きます。
| 項目 | 決めないと起きること | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 「1本」の数え方 | ストーリーズや再投稿、切り抜き動画が1本なのか複数なのかで、請求額が変わる。 | 投稿の形式・長さの上限・再投稿の可否を、発注書の項目にする。 |
| 計測の手段 | 誰のデータで数えるのかで、数字が一致しない。 | 専用リンク・専用コードの管理画面のデータを双方が確認できる方法で決める。 |
| 金額の表記 | 税込か税別かが分からず、請求額がずれる。 | 報酬・単価のすべてについて、税込か税別かを書く。 |
成果報酬の定義と控除する費目を具体的にどう書くか、最低報酬を置く場合と置かない場合に何が起こるかは、報酬・手数料の決め方に詳しく書いています。ここでは、インフルエンサーの起用に固有の、もう一つの論点を書きます。仲介者(支援会社や代理店)を入れるとき、インフルエンサーと契約する相手方は誰か、という点です。
仲介者を入れる契約では、インフルエンサーは独立した第三者として扱われ、個別のキャスティング契約の締結は仲介者の支援の対象外とされることがあります。免責の条で、インフルエンサーの投稿内容、活動状況、成果不振、投稿停止、アカウント停止又は不履行を、仲介者の責任としない旨が書かれることもあります。発注者の側から見ると、仲介者が選定と連絡調整までしか引き受けないのであれば、投稿の中身の責任、成果が出なかったときのリスク、インフルエンサーが降りたときの代替を、誰が負うのかを、契約の外に置かず、条文で確認しておく必要があります。仲介者が相手方になる契約か、インフルエンサーとの直接契約か、で、後述の表示や数字の報告の条項を、どこに置くかも変わります。
個人のインフルエンサーに発注するときは、報酬の条項に、フリーランス法の規律が重なります。同法は、業務委託の相手方である個人で従業員を使用しないものなどを「特定受託事業者」とし(2条1項)、業務委託をした事業者に、給付の内容、報酬の額、支払期日などを、直ちに書面又は電磁的方法で明示することを求めています(3条1項)。従業員を使用する事業者などが発注する場合は、報酬の支払期日を、給付を受領した日(役務の提供なら提供を受けた日)から60日以内で、できる限り短い期間内に定めなければなりません(4条1項)。さらに、従業員を使用する事業者などが1か月以上の期間で行う業務委託では、相手方の責めに帰すべき事由がないのに報酬を減額すること(5条1項2号)などが禁止されます(1か月という期間は、同法施行令1条が定めています)。また、5条2項も1項と同じく1か月以上の業務委託が対象で、相手方の責めに帰すべき事由がないのに給付の内容を変更させ、またはやり直しをさせて、相手方の利益を不当に害することが禁じられています(同項2号)。投稿の修正指示を際限なく出せる契約は、この点で問題になり得るので、修正の回数と期限を上限つきで決めておくのが現実的です。
代理店がインフルエンサーの投稿を再委託する形のときは、取適法(中小受託取引適正化法)も視野に入ります。同法の「役務提供委託」は、事業者が業として行う提供の目的たる役務の提供の行為の全部又は一部を、他の事業者に委託することです(2条4項)。代理店が広告主から請け負った投稿の制作や掲載を、個人のインフルエンサーに任せる構成は、これに当たり得ます。委託事業者と中小受託事業者の資本金・従業員数の要件は2条8項・9項に定められているため、該当するかは個別に条文で確認が必要です。
再生数・フォロワー数の報告と、水増しへの措置
インフルエンサーに発注するとき、報酬の根拠にも、発注先を選んだ理由にもなるのが、フォロワー数や再生数などの数字です。この数字は、多くの場合、本人の申告か、本人のアカウントの管理画面の数字でしか確認できません。配信の単価と、誘導の成果に連動する報酬を組み合わせる契約では、再生数などの虚偽報告への措置が論点になります。
虚偽の報告に備える条項は、次の三つの層で考えると整理できます。
- 報告の方法:何の数字を、いつまでに、どの画面のスクリーンショットや書面で報告させるか。自己申告だけでなく、投稿のURLと、期間を区切った管理画面のデータを併せて提出させる形にします。
- 発注者側の確認権:報告された数字について、発注者が資料の提出を求め、必要なら発注者側の計測と照らし合わせることができるようにします。確認に応じない場合は、報告が正しいことを前提にしないとも書けます。
- 虚偽が分かったときの効果:是正の報告を求め、それでも改まらない、または故意に水増しした場合に、報酬の減額、既払報酬の返還、契約の解除ができるようにします。
条文例数字の報告と虚偽への措置(発注者の側の例)
- 乙は、毎月末日までに、前月に行った投稿ごとに、投稿のURL、投稿日、再生数、到達数、並びに乙のアカウントのフォロワー数を、管理画面の画面写しその他の甲が指定する方法により、甲に報告する。
- 甲は、前項の報告の内容を確認するため、乙に対し、資料の提出又は説明を求めることができる。乙は、正当な理由なくこれを拒んではならない。
- 乙の報告が事実と異なることが判明したときは、甲は、乙に対し、相当の期間を定めて是正を求めることができる。乙が是正しないとき、又は事実と異なることを乙が知りながら報告したときは、甲は、当該報告に基づいて支払った報酬のうち事実と異なる部分に係る額の返還を求め、又は将来の報酬から控除することができる。
- 前項の場合において、乙が故意に数字を事実と異なるものとしたときは、甲は、催告をすることなく本契約を解除することができる。
条文例は、発注する側の目線での一般的な作り方の例です。報告の項目と期限は、報酬の算定に使う数字に合わせて絞ってください。
契約に書いていないと、どうなるのでしょうか。報酬を支払った後で、数字が水増しだったと分かったとき、契約に定めがなければ、債務不履行による損害賠償(民法415条)や契約の解除(同法541条)、詐欺による意思表示の取消し(同法96条1項)といった一般の規定に頼ることになります。いずれも、水増しの事実と、それによって発注者が損をした関係を、発注者が示さなければなりません。管理画面のデータを提出させる条項があるかないかで、立証の難しさが大きく変わります。
数字の使い道にも注意が要ります。報告を受けた再生数やフォロワー数を、発注者が自社の広告や採用ページに「再生数○万回」と載せるなら、その表示は発注者自身の表示です。実際より多い数字をそのまま使えば、景品表示法5条の問題を自ら作ることになりかねません。広告に使う数字は、発注者が確認できるものに限る、と社内でも決めておく必要があります(表示の責任の考え方は広告表示の責任分担)。また、再生数や売上を保証しないことは、報酬の条項と別に、成果を保証しない書き方と同じ整理で書けます。
確認の問いと理由数字の報告についての問い
報酬や選定の基準にする数字は、何ですか。
フォロワー数と再生数では、水増しの手口も、確認できる画面も違います。基準にする数字を一つか二つに絞ると、条項が短くなり、報告の漏れも減ります。
その数字を、誰が、どの画面で確認しますか。
本人の申告のみで足りるのか、管理画面の画面写しまで求めるのかで、虚偽があったときの立証の負担が変わります。
水増しが分かったとき、すでに払った報酬を戻してもらいますか。
返還まで求めるなら、返還の対象額の計算方法と、将来の報酬からの控除ができることを書いておく必要があります。
競合の排除と、仲介者を通さない直接契約の禁止
インフルエンサーとの契約でよく置かれる二つの制限が、競合の排除と、直接契約の禁止です。向きが逆なので、同じ「制限」でも考え方を分けます。
競合の排除は、発注者が、インフルエンサーに対して、競合する商品の宣伝を控えてもらう条項です。範囲と期間が広すぎると、インフルエンサーにとっては仕事を失う条項になり、有効性を争われやすくなります(民法90条)。また、排除の見返りがなければ、相手方に受け入れられにくいことがあります。
| 軸 | 狭く書く例 | 広く書く例 |
|---|---|---|
| 対象 | 同一の種類の商品・サービスで、発注の対象と直接競合するもの | 同業のすべて |
| 期間 | 投稿の公開の前後の一定期間と、掲載を続ける期間 | 契約期間中と終了後の長期間 |
| 範囲 | 自分のアカウントでの投稿・出演に限る | 他社の案件の受注そのもの |
| 対価 | 排除の期間に応じた報酬の上乗せを別建てにする | 報酬に含まれるものとする |
| 例外 | 契約前から決まっていた案件、すでに公開した投稿を例外に書く | 例外なし |
| 違反の効果 | 是正を求めたうえで、報酬の返還や解除 | 違約金を重ねて請求する |
どの軸も、狭く書く側が有効性を保ちやすく、実際の運用でも守られやすい書き方です。
もう一つの直接契約の禁止は、インフルエンサーの紹介や調整をした仲介者(支援会社、代理店)が、発注者に対して課す条項です。一般に、発注者が、仲介者を通じて知ったインフルエンサーと、契約期間中と終了後の一定の期間、書面の承諾なしに、販売促進、広告宣伝、キャスティングなどの取引を直接行ってはならない、という形で書かれます。「仲介者を通じて知った」とは、仲介者が紹介し、または関与したインフルエンサーをいい、契約の締結の有無を問わないとする書き方もあります。第三者を介する、名義を変えるなど、実質的に同じと評価される行為も禁じ、違反の違約金を、取引の売上などを基礎に算定する定めが置かれることもあります。
発注者の側から読むと、確認しておきたい点が三つあります。第一に、仲介者を通じて知り得た範囲です。契約を結ばなかったインフルエンサーまで含まれる書き方であれば、候補として名前を聞いただけの人にも制限が及びます。第二に、期間です。終了後も続く場合は、契約を終えた後に別の仲介者を使う計画があるかどうかと合わせて確認します。第三に、違約金の書き方です。違約金に加えて、実際に生じた損害の賠償を妨げないとも書かれている場合があります。民法は、違約金を賠償額の予定と推定し(420条3項)、賠償額の予定は履行の請求や解除権の行使を妨げないとしています(同条2項)。違約金のほかに実損害も請求できるとすると、予定を置いた意味が薄れ、金額の妥当性を争う余地も大きくなります。
違反した場合に既払報酬の全額を違約金とし、実損害も請求できるとする重ねがけの書き方は、重大な違反に限る、上限を置く、一本化する、といった見直しが考えられます(民法420条・90条の観点)。直接契約の禁止の違約金も、同じ視点で、算定の基礎、上限、実損害との関係を整理しておくと、後から争いにくくなります。業務委託全般の競業避止・直接取引禁止の比較は外注・フリーランス法のページにあります。
広告であることの表示:発注者が管理しなければならないこと
インフルエンサーに報酬や商品を提供して投稿してもらうと、その投稿は、広告であることを示さなければ、ステルスマーケティングとして景品表示法5条3号の告示(令和5年内閣府告示第19号)の問題になります。告示は、事業者が自己の供給する商品又は役務の取引について行う表示で、一般消費者がそれを事業者の表示であると判別することが困難であるものを指定しています。規制の名宛人は広告主である事業者で、依頼を受けて投稿するインフルエンサーは、広告主と共同して商品を供給しているような場合を除き、規制の対象外とされています(消費者庁のステルスマーケティングに関するQ&A)。名宛人でない側に対策を任せきりにせず、広告主が、契約で表示の仕方を決めて、守られているかを確認する必要があります。
では、どの投稿が「事業者の表示」になるのでしょうか。消費者庁の運用基準(令和5年3月28日)は、事業者が表示内容の決定に関与したと認められる場合、つまり、客観的な状況に基づき、第三者の自主的な意思による表示内容と認められない場合だとしています。事業者が第三者のSNS上に自らの商品に係る表示をさせる場合がその例に挙がっています。対価は、金銭や物品に限らず、イベントへの招待などの経済上の利益を含め、対価性を有する一切のものが含まれるとされます。さらに、明示的に依頼や指示をしていなくても、商品を無償で提供し、その第三者が事業者の方針に沿った内容を投稿するなど、自主的な意思によるものとは認められない場合は、事業者の表示になり得ると運用基準は述べています。
契約書で投稿の内容を決め、報酬を払うなら、その投稿は事業者の表示として扱う前提で書くことになります。運用基準は、明瞭になっている例として、「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」といった文言のほか、「商品の提供を受けて投稿している」といった文章を挙げています。逆に、不明瞭な例として、部分的な表示しかしていない場合、動画の中で認識できないほど短い時間にしか示さない場合、表示の末尾など視認しにくい位置に置く場合、周囲の文字より小さい、薄いなど認識しにくい場合、大量のハッシュタグの中に埋もれさせる場合などを挙げています。
表示について、発注契約に入れておきたい事項
- 広告であることを示す文言(例:「広告」「PR」など)と、示す位置(投稿の冒頭など)を、発注書で指定する。
- 動画の場合は、冒頭で認識できる時間と方法(字幕・音声)を決める。
- 編集・切り抜き・再投稿・転載のときも、表示を維持させる。
- 公開前に、発注者が投稿の内容と表示を確認し、承認する手順を置く。
- 表示の要否を誰が判断するのかを書く(「必要に応じて」とだけ書かない)。
- 表示が不十分だったときの是正の期限と、削除の求めに応じる義務を書く。
- 公開した投稿のURLと日時、画面の保存を、発注者側で行う。
- 契約が終了した後も、投稿が残る限り、表示を維持させるか、削除させるかを決める。
条文例広告であることの表示(発注者の側の例)
- 乙は、本契約に基づく投稿において、甲の商品の広告であることを、「広告」又は「PR」の文言により、投稿の冒頭など一般の閲覧者が容易に認識できる位置に明示しなければならない。動画の場合は、冒頭において、字幕又は音声により明示するものとする。
- 乙は、投稿の公開前に、投稿の内容及び前項の表示を甲に提示し、甲の承認を得なければならない。
- 甲が前項の表示が不十分であると認めたときは、乙は、甲の求めに応じ、速やかに表示を修正し、又は投稿を削除する。
- 第1項の表示は、投稿が編集、再投稿その他の方法により利用される場合にも、維持しなければならない。
文言・位置・時間は、投稿の形式ごとに発注書で指定します。
広告主と受注者のどちらが表示の作業を負うか、投稿の確認と承認の責任を誰が負うかの組み立て方は、広告表示の責任分担で整理しています。ここでは、発注書に書く項目に絞りました。見落としやすいのは、広告であることの表示を「必要に応じて」行う、と書いてしまうことです。要否を誰が判断するのかが決まらないため、判断を発注者が引き受けるのか、投稿者に義務づけるのかを、条文の中で決めておきます。発注者の公式アカウントの投稿そのものを代行会社に任せる場合の承認の流れは、SNS運用代行の契約書の投稿本数と承認フローの記事で詳しく説明しています。
値引き・商品提供と引き換えに協力してもらうとき(モニター型)
インフルエンサーに現金の報酬を払う代わりに、商品を無償で渡す、サービスや工事の代金を値引きする、といった形で協力を求める契約があります。高額な商品やサービスの値引きと引き換えに、動画を発信している利用者に広告への協力を求めるモニター型の契約も、この一つです。この型は、現金のやりとりがない分、広告の契約であるという意識が薄れやすく、前節の表示の問題が見落とされがちです。
運用基準は、第三者の表示に対して事業者が提供する対価を、金銭や物品に限らず、経済上の利益を含む、対価性を有する一切のものとしています。値引きも、投稿という行為と結びついて与えられる利益であれば、対価に当たり得ると考えて、契約を組むのが安全です。その投稿の内容について、発注者が条件をつけたり指示をしたりしていれば、第三者の自主的な意思による表示とは認められにくくなります。反対に、商品を渡して投稿を依頼するだけで、内容は本人が自主的に決めるという実態があれば、事業者の表示にならない場合もあると運用基準は述べています。契約書で投稿の内容を詳しく決めるほど、広告として表示する前提が強まるので、どちらの設計にするのかを先に決めます。
値引きと引き換えの協力の流れ
- 協力の内容を決める撮影の範囲、投稿する媒体、回数、期間を、契約書か別紙に書く。
- 値引きの額と時点を決める契約代金から差し引くのか、引渡し後に減額するのか。額の確定の時期を書く。
- 撮影・投稿する広告であることを明示し、公開前に発注者が内容を確認する。
- 協力が実現しないとき辞退や遅延があった場合の値引きの扱い(返還・減額)を、あらかじめ決める。
- 終了後投稿の権利、掲載の継続・削除、肖像の扱いを決める。
この型で、条項に落としておきたいのは、次の点です。まず、協力の義務の内容です。撮影の回数、投稿の媒体と期間、撮影の範囲を、できるだけ具体的に書きます。次に、値引きの確定の時期です。協力が終わってから値引きするのか、先に値引きして協力しなければ戻すのかで、協力者にとっての負担が変わります。後者を採るなら、返還の範囲を、協力が実現しなかった事情に応じて書きます。さらに、内容についての条件です。実際と違うことを言わせない、効果や性能の評価を指示しない、といった線を書いておきます。投稿の内容が事実と違えば、発注者自身の広告として、景品表示法5条1号などが問題になるからです。
撮影された動画や写真の権利と、協力者の肖像の扱いも決めておきます。協力者が撮影した動画の著作権を誰が持つか、広告に転用してよいか、その媒体と期間はどうか、協力者が顔や声を出す場合に、公開を取りやめてもらえるかを書きます。制作物の権利の一般論は制作物の権利のページが参考になります。商品の提供を景品として応募者に渡すキャンペーンの形にする場合は、景品の上限などの別の規律がかかるため、キャンペーン・懸賞の運営代行契約の記事で詳しく説明しています。
専門家の監修・推薦を広告に使う限界と、掲載の条件
化粧品や健康食品の広告で、医師や研究者などの専門家の名前や肩書を使うことがあります。「監修」「推薦」「共同開発」といった表現は、一般の消費者に強い信頼を与えるので、規制も厳しくなります。確認できた規律は、次のとおりです。
| 規律 | 内容 | 対象の商品 |
|---|---|---|
| 薬機法66条2項 | 効能・効果・性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告・記述・流布することは、1項(虚偽・誇大な記事の禁止)に該当するものとする。 | 医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品 |
| 医薬品等適正広告基準 第4の10(平成29年9月29日付薬生発0929第4号の別紙) | 医薬関係者、理容師、美容師、病院、診療所、薬局その他、効能効果等に関し世人の認識に相当の影響を与える公務所、学校又は学会を含む団体が、指定し、公認し、推せんし、指導し、又は選用している等の広告を行ってはならない。公衆衛生の維持増進のため公務所等が指定等をしている事実を広告する必要がある場合などは、例外。 | 同上。基準は、ウェブサイトやSNSを含むすべての媒体の広告を対象とする(第2) |
| 健康増進法65条1項 | 食品として販売に供する物について、健康の保持増進の効果などに関し、著しく事実に相違する表示や、著しく人を誤認させる表示をしてはならない。 | 食品(名宛人は「何人も」) |
| 景品表示法5条1号 | 実際に関与していないのに監修や推薦をしたかのように示せば、商品の品質などを実際よりも著しく優良であると示す表示になり得る。 | 商品・サービス全般(名宛人は表示をする事業者) |
上の4行は、条文と、厚生労働省の通知の原文で確認した内容です。
つまり、化粧品や医薬部外品では、「医師が推薦」「薬剤師も愛用」のように、医薬関係者が推薦している旨の広告は、原則として行えません。専門家の「コメント」として載せる場合でも、実質的に保証と受け取られる書き方は、薬機法66条2項に触れるおそれがあります。専門家の肩書を使う広告を発注する前に、商品の区分(化粧品か、医薬部外品か、食品か)を確かめ、その区分に応じた基準で表現を確認します。
専門家が実際に関与した内容を表示する場合にも、運用基準が示す、依頼して得たコメントの書き方が参考になります。運用基準は、事業者が専門家などの第三者に依頼や指示をして内容を表示させたときの明示の例として、「弊社から○○先生に依頼をし、頂いたコメントを編集して掲載しています」といった表示を挙げています。第三者の客観的な意見のように見せながら、実際には発注者が依頼して作らせたものであることを、隠さないという考え方です。
専門家が登場する広告の、掲載の範囲の限り方は制作物の権利で、専門家が商品の品質や効能を保証しないこと、問題が起きたときの賠償の定めは広告表示の責任分担で整理しています。発注する側が条項を組むなら、掲載の媒体と期間、買い取り(二次利用や転載を含めて使いたいときの範囲と対価)、発言の確認の手順、専門家が実際に関与した事実を示す資料の保管、肩書の正確な表記、問題が起きたときの掲載の差替えと撤回を、契約の中に書き込む必要があります。医療機関の広告の規制は、同じページに整理しています。
確認の問いと理由専門家を起用する前の確認の問い
商品は、化粧品、医薬部外品、食品のどれですか。
区分によって、適用される規律が違います。化粧品・医薬部外品なら、医薬関係者等の推せんの禁止(適正広告基準)が関わります。
専門家は、商品の開発や成分の選定に、実際に何をしましたか。
実体のない「監修」は、優良誤認の問題になります。関与の内容を示す資料を、契約の保管義務の対象にします。
専門家の言葉を、広告のどこに、どの媒体で使いますか。
掲載の媒体と期間を限定した利用許諾にするか、買い取りにするかで、報酬の額も変わります。
起きがちなことと、契約書での備え
発注する側の条項は、報酬、数字、制限、表示、専門家の五つが絡み合って動きます。広告表示全般の責任分担は広告表示の責任分担、報酬の型は報酬・手数料の決め方、個人への発注の規律は外注・フリーランス法もあわせてご覧ください。
よくあるご質問
インフルエンサーに商品を無償で渡して、感想を投稿してもらう場合も、広告として表示する必要がありますか?
消費者庁の運用基準は、無償で商品を提供して依頼しても、第三者が自主的な意思に基づく内容として表示するなら、事業者の表示にならないとしています。一方、提供を受けた第三者が事業者の方針や内容に沿った表示をするなど、自主的な意思によるものと認められない場合は、事業者の表示になり得るとしています。契約書で投稿の内容や条件を決めるほど、広告として表示する前提で書く必要が強まります。
インフルエンサーが再生数を水増ししていたと分かったら、支払った報酬を取り戻せますか?
契約に定めがなければ、債務不履行による損害賠償(民法415条)、解除(同法541条)、詐欺による取消し(同法96条1項)などの一般の規定を使うことになり、水増しの事実と損害の関係を発注者が示す必要があります。管理画面のデータの提出義務と、虚偽があったときの返還・控除・解除を契約に書いておくと、立証の負担が大きく下がります。
競合の商品を宣伝しないという条項は、どこまで書けますか?
範囲や期間が広すぎると、民法90条(公序良俗)の観点から有効性を争われやすくなります。対象を直接競合する商品に絞り、期間を投稿の前後と掲載を続ける期間に限り、排除の対価を別建てにすると、有効性を保ちやすく、運用でも守られやすくなります。
化粧品の広告に、医師の推薦コメントを載せてもよいですか?
医薬品等適正広告基準(平成29年9月29日付薬生発0929第4号の別紙)の第4の10は、医薬関係者などが推せんしている旨の広告を行ってはならないとしています。この基準は化粧品を対象に含みます。薬機法66条2項も、医師その他の者が保証したものと誤解されるおそれがある記事を、虚偽・誇大な記事に当たるとしています。肩書の使い方は、商品の区分に応じて、個別に確認が必要です。
代理店がインフルエンサーに投稿を再委託するときに、気をつける法律はありますか?
相手方が従業員を使用しない個人などの場合は、フリーランス法の明示(3条)が問題になり、代理店が従業員を使用する場合などには、支払期日(4条)や、1か月以上の委託での禁止行為(5条)の規律も問題になります。さらに、代理店が広告主から請け負った役務の提供を再委託する形は、取適法(中小受託取引適正化法)の役務提供委託(2条4項)に当たり得ます。資本金や従業員数の要件があるため、該当するかは条文で確認が必要です。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月22日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 表示対策(消費者庁) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)