広告表示の責任分担

受注者が提案し入稿した広告に問題があったとき、誰が処分の対象になり、誰が費用を負担するのか。この二つを分けて書きます。

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契約で「法令を遵守する」と一般的に約束していた受注者は、景品表示法の名宛人でなくても、広告主から「止めるべきだった」と言われかねません。

このページの要点

  • 景品表示法の不当表示の規制とステマ告示の名宛人は「自己の供給する商品又は役務」について表示をする事業者(同法5条)。
  • 薬機法66条1項・健康増進法65条1項・医療法6条の5は「何人も」が名宛人。受注者自身も対象になり得る。
  • 表示の内容と根拠資料の責任は広告主、受注者は助言・保証をせず、違反のおそれがあれば止められると書く。
  • 責任分担の条は処分の名宛人を定めるものではなく、費用と損害の負担を定めるものと明記する。

結論:法律上の名宛人と、契約上の負担を分けて書く

広告運用代行や集客支援の受注者は、広告文やLPの文案を提案し、入稿し、配信します。その広告に、実際より著しく良く見せる表示や、広告であることを隠した投稿が含まれていたら、誰が責任を負うのでしょうか。ここで区別しておきたいのは、次の二つです。

  • 法律上、行政の処分や刑事罰の対象になる者(名宛人)は誰か。これは法律が決めるもので、契約で変えることはできません。
  • 当事者の間で、処分や紛争で生じた費用・損害を最終的にどちらが負担するか。これは契約で決められます。

事務所の書類では、この二つを混同しないように書いています。受注者の側では「表示の内容の最終的な判断と責任は広告主」「受注者は違反のおそれがあれば止められる」、発注者の側では「受注者の設定ミスや運用ミスは受注者の責任」と、それぞれの立場から負担を決め、法律が誰を名宛人にしているかは別に確認する、という整理です。このページでは、広告表示の規制ごとに事務所の書類での扱いを紹介します。営業の勧誘に関するルールは勧誘のルールと特定商取引法で扱います。

規制ごとの名宛人:「自己の供給する」事業者と「何人も」

広告の規制は、誰を名宛人にしているかで二つに分かれます。

広告表示の主な規制と名宛人(条文で確認したもの)
法律規制の内容名宛人
景品表示法5条優良誤認(1号)・有利誤認(2号)の表示と、内閣総理大臣が指定する表示(3号)の禁止。いわゆるステルスマーケティングは3号に基づく告示(ステマ告示)で指定「自己の供給する商品又は役務の取引について」表示をする事業者
景品表示法7条・8条違反行為への措置命令(7条1項)。優良誤認・有利誤認には原則として売上額の3%の課徴金(8条1項。5条3号の表示に係るものは対象外)違反行為をした事業者
薬機法66条1項医薬品・医薬部外品・化粧品・医療機器・再生医療等製品の名称・製造方法・効能・効果・性能について、虚偽又は誇大な記事を広告・記述・流布することの禁止。違反は2年以下の拘禁刑若しくは200万円以下の罰金又は併科(85条4号)何人も
健康増進法65条1項食品として販売に供する物の広告その他の表示で、健康の保持増進の効果などについて著しく事実に相違する表示、著しく人を誤認させる表示の禁止何人も
医療法6条の5医業・歯科医業・病院・診療所に関する広告での虚偽の広告の禁止(1項)と、比較優良・誇大などをしない基準(2項)何人も

景品表示法は、名宛人を「自己の供給する商品又は役務」について表示をする事業者としています。広告運用代行会社や制作者は、ふつうは自分で商品を供給していないので、広告主の商品の表示について措置命令や課徴金の名宛人になるのは原則として広告主です。ステマ告示も同じ5条3号に基づく指定なので、規制の名宛人は、自己の供給する商品・役務について表示をする広告主です。

これに対して、薬機法66条1項・健康増進法65条1項・医療法6条の5は「何人も」と書いています。広告主に限らず、広告を作り、記述し、流布した者も規制の対象になり得るということです。化粧品・健康食品・医療機関の広告を受けるときに、受注者自身の責任を考える必要があるのはこのためです。

では、景品表示法の名宛人でない受注者は安心してよいかというと、そうではありません。SNS運用支援の規約のレビューでは、景品表示法・ステマ告示の名宛人は広告主(顧客)であるとしつつ、規約が受注者にも法令遵守の義務を課しているため、顧客が「受注者が止めるべきだった」と損害賠償を求める根拠にできてしまう、と指摘しました。法律上の名宛人でなくても、契約で引き受けた義務の違反として責任を問われ得るのです。また、同じレビューでは、ステマの防止のための「PR」の表記を「必要に応じて」行うとしながら、誰が必要と判断するのかが決まっていないことも指摘しています。

受注者の側の書き方:最終的な判断は広告主、受注者は止められる

受注者の側で作成した書類は、おおむね次の3点で構成しています。

受注者の側の書類の3つの柱

表示の責任は広告主

内容・根拠資料・最終判断

  • LP・クリエイティブ・商品説明・価格表示・特商法の表示などの適法性と正確性は、広告主が自分の責任と費用で確保する
  • 表示の根拠資料を持つのは広告主
  • 受注者は法務の意見を出す義務を負わない

受注者は止められる

修正の要求・配信の拒絶・解除

  • 法令違反のおそれがあれば修正や停止を求め、従わなければ業務を止め、解除できる
  • 違反のおそれがある成果物への協力を拒否でき、そのための遅延や本数の不足は免責

素材の保証

広告主の提供物

  • 広告主が提供する資料が第三者の権利を侵害しないことを広告主が保証する
  • 広告媒体・決済事業者・監督官庁との紛争は広告主が解決する

個人の広告運用者の基本契約は、この3点をそのまま条文にし、対象外業務にも「景品表示法その他の広告法務審査」を入れています。採用支援・Web広告のクライアント向けの基本契約は、商品・表示の内容・根拠資料が景品表示法・特定商取引法・著作権法・職業安定法・薬機法・媒体のポリシーに適合することは発注者が最終的に確認し責任を負うとし、受注者は違反のおそれがあれば修正の要求・配信の拒絶・中断ができると定めました。採用の広告を扱う会社の契約なので、確認すべき法律の列挙に職業安定法も入っています。扱う広告の分野に合わせて、列挙する法律を選ぶ形です。

AIを使った発信基盤の追加契約では、景品表示法・薬機法・健康増進法・特定商取引法・金融商品取引法・著作権法・各プラットフォームの規約への適合は発注者が最終的に責任を負い、受注者は配慮するが適合を保証せず、法令上の助言もしないと定めました。ステマ規制(景品表示法5条3号の指定)に基づく広告表示の要否と方法は発注者が判断し実施する、と判断の主体も明記しています。MAツールのローンチの構築・運用では、「中身(文章・価格・特商法の表記・効果の表現)は発注者、器(設定・リンク・フォーム)は受注者」という分け方を回答書で示し、契約書に反映しました。

条文例広告表示の責任(受注者の側の例)

  1. 広告、LP、投稿その他の表示の内容並びにその根拠となる資料の真実性、正確性及び法令(景品表示法、薬機法、健康増進法、特定商取引法その他の関係法令をいう。)への適合性は、甲が最終的に確認し、その責任を負う。乙は、甲に対し、法令上の助言又は適合性の保証をしない。
  2. 乙は、表示が法令又は広告媒体の基準に違反するおそれがあると判断したときは、甲に修正を求め、又は当該表示の制作、入稿若しくは配信を拒絶し、若しくは中断することができる。これにより生じた遅延について、乙は責任を負わない。
  3. 本条は、行政庁による処分その他の公法上の責任の名宛人を定めるものではなく、甲乙間における費用及び損害の負担を定めるものである。

3項は、Webサイト制作の契約の再レビューを経た最終版に加えられた一文を、広告運用の契約に置き換えた例です。

3項の一文には経緯があります。Webサイト制作者(受注者)の依頼による契約書のレビューで、掲載内容の適法性の責任分担がないこと、受注者が文章作成を補助する以上「甲から提供された素材に起因する」場合に限った免責では守り切れないことを指摘しました。依頼者が作った改訂版は、適合性を発注者が最終確認・承認し、受注者が掲載を拒否できる条を新設しています。再レビューでは、これを当事者の間では有効と評価したうえで、措置命令や課徴金の名宛人は行政が判断するので契約では変えられず、この条の実益は費用や損害を求償する根拠にあると説明しました。最終版では、名宛人を定める条ではなく負担を定める条であることを明記しています。条文が法律の名宛人まで変えられるかのように読める書き方を避けたものです。

「何人も」規制の商材を受けるとき

経営・マーケティングのコンサルティング契約のレビューでは、相手方が健康・美容に関わる商材を扱う可能性があったため、広告の訴求の助言について、薬機法66条1項・健康増進法65条1項は「何人も」が名宛人で、効能の表現を提案した受注者自身に及び得ること、契約の責任分担で公法上の責任は移せないことを指摘しました。

事務所の書類での改訂 広告の表現についての条(コンサル契約の改訂)

規制のある商材の扱い

改訂前依頼者の原案:広告の訴求の助言について特段の定めなし
改訂後改訂版:相手方の商品が規制の対象となる商品かどうかを別紙に記載する。受注者の提案は例示で、採否と最終的な表現は相手方が決める。受注者は規制の対象となる商品の効能の表現の作成を断ることができ、違法のおそれがある施策は助言しないことができる

受注者が効能の表現を「作る」立場に立たないようにする設計です。何を扱うかを別紙で特定しておくと、後から商材が変わったときにも確認の手がかりになります。

SNS運用支援の規約のレビューでも、薬機法66条1項・医療法6条の5・健康増進法65条は「何人も」が名宛人なので、顧客の承認を得ていても、制作し投稿した受注者自身の責任は免れない、と指摘しました。改善として、表示の真実性と根拠資料は顧客の責任とすること、受注者の確認の範囲と非保証、PR表記の判断の主体、受注者が拒否した投稿を本数にどう数えるか、規制のある業種を受けるときの手順を規約に書くよう提案しています。受注者が拒否した投稿の扱いを決めておかないと、「本数が足りないから月額を減らせ」という別の争いに移るためです。

承認と公開の手順:みなし承認を公開に使わない

制作物の確認の手続では、一定の期間に返事がなければ承認したとみなす「みなし承認」がよく使われます。AIを使った発信基盤の追加契約では、みなし承認の効力を、検収・修正回数・進行の管理に限りました。予約投稿には明示の承認が必要で、価格・実績・効果・保証に関する表現、顧客の声、性的な表現を含む投稿は、1本ごとに個別・明示の承認を要します。承認がないために公開が遅れても受注者の債務不履行にはなりません。返事がないまま、規制に触れ得る投稿が公開されてしまう流れを止めるための設計です。

MAツールのローンチの構築・運用では、配信と決済の設定は、テスト送信・テスト決済をして発注者の承認を得てから本番にし、承認どおりに設定したなら受注者は責任を負わない、承認が得られなければ保留する、と定めました。誤りがあったときの顧客への説明と返金は、発注者が決め、発注者の名義で行います。

発注者の側から見ると、承認による免責には別の問題があります。広告主の側からSNS広告の運用代行契約(代行会社の原案)を確認した報告書では、次の点を指摘しました。

ヒヤリングの問いと理由広告主の側から代行会社の原案を確認したときの指摘

  1. 投稿の公開後の内容について「乙は一切の責任を負わない」とあります。

    ターゲティングの誤り、誤った入稿(別の素材や誤った表現)、配信地域や年齢制限の設定の不備は、代行会社の業務の範囲です。「甲の承認内容に基づく場合を除き、乙の設定ミス・運用ミスについては責任を負う」と明記するよう求めました。

  2. 「甲が問題ないと判断した場合は乙の責任を免れる」とあります。

    代行会社は専門家として、明らかな違法性があれば運用を止めるべき立場にあります。明らかな法令違反の可能性があれば代行会社が運用を拒否できる(又は拒否する義務を負う)旨を加えるよう求めました。

  3. 全面的な免責と、第三者との紛争を広告主の負担とする条があります。

    景品表示法に違反する広告の出稿、画像やコピーの権利侵害、炎上を例に、この契約で最大のリスクの箇所としました。代行会社の故意・過失や、専門の業者としての注意義務の違反は責任を負う旨を加えるよう求めています。

受注者の側の「表示は広告主の責任」と、発注者の側の「設定ミスは受注者の責任」は、矛盾するものではありません。表示の内容(何を言うか)と、運用の作業(どこに、誰に、どう出すか)を分けて書けば、両立します。外部のパートナーに任せる場面では、Webマーケティング会社と個人のパートナーの基本契約で、当初の案が、パートナーが景品表示法やネット広告・SNS運用のガイドライン、業界団体のルールに違反したことによる損害を全部賠償させる形だったのを、パートナーの側からの修正で、発注者の事前の承認を得ずに成果物や情報を第三者(発注者のクライアントを含む)に直接提供し、その結果違反した場合に限る形に改めています。発注者の承認を経た成果物の表示のリスクは、発注者の側に残す設計です(外部パートナーとの契約)。

医療広告・PR表記・人が登場する広告

医療機関の広告では、医療法と医療広告ガイドラインが関わります。医療法人のSEO記事の制作・投稿代行の契約のレビューでは、医療広告ガイドライン・薬機法・景品表示法の遵守を「甲の責任と負担」とし、受注者は「一切責任を負わない」とする条について、受注者も制作に関与する者として、医療関連の法令に明確に違反しないよう一般的かつ合理的な範囲で留意する義務を負い、最終的な確認と法令適合性の判断は発注者が行う、というバランスをとった案を示しました。医療機関向けの集客記事を受注者の側で書いた契約では、記事の内容を発注者が監修して正確性・適法性に最終的な責任を負い、修正の指示は3回まで、承認後の内容は受注者の故意・重過失がない限り免責、医療法・医療広告ガイドラインへの適合の最終判断は発注者としています。

PRの表記を受注者が担う契約もあります。SNSでのプロデュースと作品販売の収益分配の契約では、SNSのPR案件(広告収入)で事業者の広告であることを隠すとステマ告示に違反するおそれがあることから、受注者が「事業者の表示である旨を明瞭に表示する」義務を負う条を置きました。ステマ告示の名宛人は広告主ですが、実際に投稿するのが受注者であれば、契約で表示の作業を受注者に義務づけておく意味があります。パーソナルジムとトレーナーの契約の修正版でも、トレーナー個人のSNSで店舗を宣伝する場合は事前の承諾を得て、広告であることを明示することとしています。

インフルエンサーを使う場面では、SNS上のショップ機能への出店支援の契約が、インフルエンサーの投稿内容は発注者が最終的に確認・承認して適法性の責任を負い、原則として発注者の事前の承認後に公開し、受注者の確認や助言は参考の情報にとどまる、インフルエンサーは受注者の代理人・使用人でも再委託先でもない、と定めています。広告に専門家が登場する化粧品のECの掲載契約では、専門家は商品の品質や効能を保証せず、商品に問題が起きて専門家の信用が傷ついたときは販売会社が賠償すると定めました。LP制作と広告運用代行を受ける個人の支援者の契約(2024年)では、公開は発注者が行い公開後の掲載内容に受注者は責任を負わないこと、発注者から渡された文章や画像に法令や公序良俗に反する内容が含まれる(可能性がある)と受注者が判断したときは直ちに解除できることを定めています。口コミの依頼と報酬の扱いはMEO・SEO・口コミの契約で扱います。

起きがちなことと、契約書での備え

表示の責任は、成果非保証や業務範囲の条と組み合わせて設計します。契約の型と業務範囲、成果を保証しない書き方もあわせてご覧ください。

よくあるご質問

広告に景品表示法違反があったら、広告運用代行会社も処分されますか?

景品表示法の不当表示の規制は「自己の供給する商品又は役務」について表示をする事業者を名宛人としているため、商品を供給していない代行会社は、原則として措置命令や課徴金の名宛人になりません。ただし契約で法令遵守義務を負っていれば、広告主から損害賠償を求められる根拠になり得ます。

化粧品や健康食品の広告では、代行会社自身も責任を負いますか?

負い得ます。薬機法66条1項、健康増進法65条1項、医療法6条の5は「何人も」を名宛人としているので、広告を作り、流布した受注者も規制の対象になり得ます。契約の責任分担で公法上の責任を移すことはできません。

「広告主が承認したら代行会社は免責」と書けば十分ですか?

当事者の間の負担を決める意味はありますが、法律上の名宛人は変わりません。事務所の書類では、この条が処分の名宛人を定めるものではなく、費用と損害の負担を定めるものであることを明記した例があります。発注者の側からは、設定ミスや運用ミスは受注者の責任とするよう求めるのが通例です。

ステマ規制の「PR表記」は誰が判断しますか?

ステマ告示の名宛人は商品を供給する広告主なので、表示の要否と方法の判断は広告主とするのが基本です。実際の投稿を受注者が行う場合は、契約で受注者に広告であることを明示する作業を義務づけておきます。

医療機関の広告を受けるときに、契約で気をつけることは?

記事や広告の内容は医療機関が監修し、医療法・医療広告ガイドラインへの適合の最終判断も医療機関が行うと書きます。レビューでは、受注者も制作に関与する者として明確な違反を避けるよう留意する、というバランスをとった案を示しています。

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本ページは一般的な情報提供です。事務所の改訂例・ご相談の事例として紹介している内容は、アトラス行政書士法人が作成・レビューしてきた広告運用代行・Web集客支援・マーケティング支援の業務委託契約書、MEO・SEOサービスの利用規約、テレアポ・アポ獲得代行・営業代行の契約書、レビュー報告書、ヒヤリングシートなどを、個別の事業者が特定できない形に整理したものです。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月16日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 表示対策(消費者庁) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)

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