このページの要点
- 宛先リストは、委託者が用意するか受託者が作るかで、取得元の適法性の保証の主体を分けて書く。個人データを預けるときは委託先の監督(個人情報保護法25条)を契約に落とす。
- 特定電子メール法がかかるのは「電子メール」(SMTP又は電話番号宛て)。郵便の紙のDMや手紙は定義の外。フォーム送信は断定せず、拒否の記録と送付停止の運用を契約に置く。
- 「送信完了」「発送完了」の基準点を一つに定め、報告の様式、検収の期限、異議の手続を書く。サンプルの確認と、みなし承認の期間も決める。
- 文面の最終承認と表示の責任は委託者。AIを使うなら入力データの学習利用の有無を決め、品質の非保証と郵送事故の免責は、作業ミスの責任と分けて書く。
結論:宛先・文面・数え方・品質の4つを、契約で別々に決める
問い合わせフォームへの送信、郵送のダイレクトメール(DM)、手書き風の営業手紙。形は違っても、営業先に「文書」を届ける仕事を外部に任せるという点は同じで、契約書や利用規約で行き違いが生じる箇所もほぼ共通しています。電話の代行(テレアポ代行の契約書)と違うのは、相手に届くものが記録に残る文面であること、そして1通ごとに費用と手間がかかり、出したものを取り戻せないことです。決めておくべきことは、次の4つに整理できます。
- 宛先のリストを誰が用意するのか。取得元の適法性を誰が引き受けるのか。リストに載っている個人の情報を、受託者がどこまで使ってよいのか。
- 文面を誰が作り、誰が最終的に承認するのか。文面の中の表示(効果や価格の書き方)に問題があったとき、誰の責任になるのか。
- 何をもって「1件送った」と数えるのか。送信完了、発送完了、到着のどこで報酬が発生し、どこで検収が済んだことになるのか。
- 品質について何を約束し、何を約束しないのか。誤字、手書きの見栄え、郵送事故、遅延、料金の内訳をどう書くのか。
このページでは、問い合わせフォーム営業の代行、DMの作成・発送の代行、営業手紙の発送代行サービスといった契約や利用規約に共通する、この4つの書き方を一般論として説明します。広告運用や営業代行一般の契約の型は契約の型と業務範囲と営業代行・クロージング委託の契約書で扱っているため、ここでは書面・フォームによる営業に固有の論点に絞ります。
宛先リストは誰のものか:個人情報の委託と取得元の保証
営業のための宛先リストには、会社名や住所だけでなく、担当者の氏名、部署、役職、メールアドレス、個人事業主の自宅を兼ねた住所などが含まれることがあります。氏名などで特定の個人を識別できる情報は個人情報で、それが検索できるよう体系的に整理されたリストであれば、その中身は個人データとして扱われます。したがって、宛先リストを渡す・預かる・作るという行為は、個人情報保護法の規律の中で行われる行為です。
リストの出どころによって、契約で決める内容は変わります。一般に、次の3つの型に分けて考えます。
宛先リストの出どころによる3つの型
委託者が用意する型
DMの発送代行などで一般的な型
- 送付先の氏名・住所・役職・企業名などを提供情報と定義し、正確性・真実性・完全性・適法性の確保を委託者の責任とする
- 個人情報保護法などの法令に違反しないことを委託者が保証する
- 情報の不備による遅延・誤配達・返送について、受託者は責任を負わない
受託者が作る型
リスト作成を付帯業務にする場合
- 業種・所在地・規模などの属性に基づいて、受託者が送付対象のリストを取得・編集する
- 取得の元(第三者のデータベースなど)をどう開示するかが決まっていないことが多い
- 委託者の保証条項と、受託者が作ったリストの責任が衝突しやすい
成果物としてリストを納める型
営業リストの作成そのものを業務にする場合
- 企業名、部署、役職、氏名、メールアドレス、電話番号などを項目とするCSVを納める
- 項目、形式、件数の基準を定義に書かないと、納品したかどうかが争いになる
- 納めたリストの著作権・利用範囲と二次利用の可否を決める
最も問題が起きやすいのは、二つ目の型です。委託者が用意するリストについては、適法性の保証を委託者に置く書き方が自然に見えます。ところが、付帯のオプションとして受託者による送付先リストの作成を認める場合に、同じ保証条項をそのまま使うと矛盾が生じます。受託者が自分で取得したリストについて、委託者が適法性を保証する理由はありません。この場合、「受託者が取得したリストについては、受託者が取得元と取得の方法の適法性を確認し、委託者の求めに応じて説明する」と、保証の主体を分けて書く必要があります。
委託者がリストを渡すとき:法律上の位置づけ
委託者が自社の保有する個人データを受託者に預けて発送や送信をさせる場合、個人情報保護法27条5項1号により、利用目的の達成に必要な範囲内で個人データの取扱いの全部又は一部を委託することに伴って提供される場合、その提供を受ける者は、同条の第三者に当たらないとされています。つまり、委託の範囲内であれば、本人の同意を新たに取らなくても、受託者に預けることができます。その代わりに、委託者には25条により、委託を受けた者に対する必要かつ適切な監督を行う義務があります。受託者の側から見れば、これは「委託者が自分を監督してくる」ということです。契約の中に、安全管理の措置、再委託の制限、漏えい時の通知、終了時の返還・消去を書いておくのは、この監督を契約の言葉に直したものです。
委託の範囲を超えて使うことは、この整理の外に出ます。委託を受けた受託者が、預かったリストを自社の営業に流用したり、ほかの顧客のための送信に使い回したりすれば、それは委託ではなく別の利用です。契約には「委託の目的以外に使用しない」「複製は作業に必要な範囲に限る」「作業の終了後、一定の期日までに返還又は完全に消去する」と書きます。テレアポ代行のリスト・架電記録の帰属の条と同じ考え方です。預かった情報の秘密保持を取引全体の契約から切り出して結ぶ場合は、広告代理業務の秘密保持契約(NDA)の記事で詳しく説明しています。
条文例宛先リストの取扱い(委託者が用意する場合の考え方)
- 乙(委託者)は、甲(受託者)に対し、本業務のために送付先リスト(以下「本リスト」という。)を提供する。乙は、本リストを乙が適法に取得したものであること、及び本リストを本業務のために甲に取り扱わせることが法令に違反しないことを保証する。
- 甲は、本リストを本業務の目的の範囲でのみ取り扱い、自己又は第三者の営業その他の目的に使用してはならない。複製は本業務に必要な最小限の範囲に限る。
- 甲は、本リストの漏えい、滅失又は毀損を防止するために必要かつ適切な安全管理の措置を講じ、これらのおそれがあることを知ったときは、直ちに乙に通知する。
- 甲が本業務の一部を再委託する場合は、乙の事前の承諾を得るものとし、再委託先に本条と同等の義務を課し、その履行を監督する。
- 本業務の終了後、甲は、乙の指示に従い、本リストを速やかに返還し、又は復元できない方法で消去し、その旨を書面又は電子メールで報告する。
一般的な書き方の例です。再委託の条はデータの保護に限らず、品質や納期にも関わるため、外注契約のページとあわせて設計します。
受託者がリストを作るとき
受託者が属性条件に合う企業をリスト化して納める場合は、受託者が個人情報を取得する立場になります。取得の方法が偽りその他不正の手段であってはならず(個人情報保護法20条1項)、取得したときは利用目的を本人に通知するか公表する必要があります(同法21条1項)。さらに、リストを委託者に渡す行為は、その中に個人データが含まれるなら、第三者への提供に当たり得て、同法27条1項の制限を受けるかどうかを確認しなければなりません。法人の名称や所在地、代表の連絡先などの組織に関する情報だけであれば、個人情報の問題は生じにくい一方、担当者の氏名や個人宛のメールアドレスが入ると事情が変わります。
契約には、リストに含める項目を決めたうえで、個人に関する項目(氏名など)を入れるかどうかを委託者が判断できるようにしておきます。取得元の種類(公開情報、自社で保有する名簿、第三者から購入したデータなど)を受託者が説明する義務、委託者がリストを利用できる範囲と期間、リストに誤りがあったときの差替えの手続も書いておくと、納品後の争いを減らせます。「営業リスト」を納める契約では、情報項目、データ形式、件数の基準が書かれていないと納品の可否が争いになりやすいため、企業名・部署・役職・氏名・メールアドレス・電話番号といった項目を含むCSVというように、成果物の仕様を条文に書きます。
DMをきっかけに結ばれた取引のクーリング・オフと書類の判定は、SNS・DMからの勧誘とクーリング・オフの判定と書類で解説されています。
フォーム・メール・郵便・手紙:特定電子メール法のかかる範囲を見極める
営業の文書を送るとき、真っ先に思い浮かぶ規制は特定電子メール法(特定電子メールの送信の適正化等に関する法律)です。ただし、この法律がかかるのは「電子メール」に限られます。同法2条1号は、電子メールを、特定の者に対し通信文その他の情報をその使用する通信端末機器の映像面に表示されるようにすることにより伝達するための電気通信であって、総務省令で定める通信方式を用いるもの、と定めています。この省令は、①その全部又は一部においてシンプルメールトランスファープロトコル(SMTP)が用いられる通信方式、②携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式、の2つを挙げています。
| 送り方 | 条文上の位置づけ | 契約で決めておくこと |
|---|---|---|
| 電子メール(SMTP)で営業の文面を送る | 2条1号の電子メールに当たる。広告・宣伝の手段として営利団体等が送れば特定電子メールで、3条の同意や4条の表示の義務がかかる | 同意の取得元と記録、表示事項、配信停止の窓口。送信を代行する場合は送信者と送信委託者のどちらが責任を持つか |
| 電話番号宛てのメッセージ(SMS) | 省令の②の通信方式に当たる | メールと同じ。番号の取得元の確認 |
| 郵便で送る紙のDM・手紙 | 通信回線で伝える方法ではないため、2条1号の電子メールの定義の外 | 特定電子メール法ではなく、個人情報保護法、表示の規制、苦情への対応の取り決めが中心になる |
| 問い合わせフォームに入力して送る | フォーム送信がこの定義に当たるかどうかは、本ページでは断定しない | 条文上の定義と所管官庁の公表資料を確認する。当たる場合に備え、同意・拒否の記録と送付停止の運用を契約に置く |
電子メールの定義は、特定電子メール法2条1号と、同号の通信方式を定める総務省令(2条1号の通信方式を定める省令)で確認できます。フォーム送信の取扱いは、所管官庁の公表資料にあたって確認してください。
フォーム営業を「電子メールではないから規制がない」と整理してしまうのは危険です。フォームに入力する方法でも、受け手にとっては営業の連絡が来たという点で変わりがなく、苦情や信用の問題は起こります。法律上の当否とは別に、受け手が営業の連絡をやめてほしいと伝えてきたときに、それを記録して以後送らない、という運用は、送信側の事業の信用を守るために必要です。契約には、断りの申出を受けたときの対応を書きます。
特定電子メールにかかる場合の義務の中身
特定電子メール(営利を目的とする団体や営業を営む個人が、自己又は他人の営業につき広告・宣伝を行う手段として送信する電子メール)には、次の義務がかかります。
- 送ってよい相手の限定(3条1項):あらかじめ送るよう求めた、又は送信に同意した者、書面で自己のメールアドレスを通知した者、広告の対象の営業を営む者と取引関係にある者、インターネットで自己のメールアドレスを公表している団体又は営業を営む個人に限られます。
- 同意の記録の保存(同条2項):求めや同意があったことを証する記録を保存します。保存の期間は省令で、最後に送信した日から1か月を経過する日までなどと定められています。
- 拒否した者への送信の禁止(同条3項):送らないよう求める通知を受けたら、その意思に反して送ってはいけません。送信委託者が通知を受けた場合も含まれます。
- 表示の義務(4条):送信者の氏名又は名称(送信委託者がいる場合は、送信に責任を有する者)、拒否の通知を受けるためのメールアドレスなどを表示します。
ここで契約の設計にとって重要なのは、3条1項1号に「送信委託者」(電子メールの送信を委託した営利目的の者)という概念があることです。同意や配信停止の通知は、送信者だけでなく送信委託者が受けた場合も数えられ(3条1項1号、同条3項)、表示の義務では、送信委託者がいる場合に送信者又は送信委託者のうち送信に責任を有する者の名称を表示することになっています(4条1号)。さらに、送信委託者が同意の通知の受領や記録の保存などの業務の一部を行い、その送信につき送信委託者の責めに帰すべき事由があるときは、措置命令(7条1項)の対象に送信委託者が加わり得ます。送信を代行に出せば責任を外に出せる、という整理にはなりません。契約では、同意の取得元や記録を誰が保管するか、拒否の通知を誰が受けてどう共有するかを、委託者と受託者の間で具体的に決めます。
「送信完了件数」「発送完了」をどう数えるか:定義と検収
報酬が通数や件数で決まるサービスでは、1件の数え方が報酬そのものです。委託料を「送信完了件数」を基準に算出すると定めながら、送信完了が何を指すのかを定めていない書き方は、よく見られます。エラーとして戻ったものを含むのかどうかが不明で、委託者が成果を受け取って確認したことを示す手続(検収)もないと、支払のときに認識のずれが生じやすくなります。
書き方の例(一般的な例) 「送信完了件数」の定義と検収
件数の定義
エラーの表示だけを基準にすると、送信後に相手方の側で受信できなかったものも件数に入る可能性が残ります。件数の基準を「送信操作の完了」と「受信の確認」のどちらに置くかを、金額と見合わせて決めます。
確認と検収
検収は、報酬の確定時点と、後から件数を争える期間を区切る役割を持ちます。異議を述べないまま期間が過ぎたときの扱いも、あらかじめ決めておきます。
支払の遅れ
金銭債務の遅延の取扱いを書いておくと、支払の催促の根拠が明確になります。割合は当事者間の合意で決める事項です。
郵送や手紙の場合は、数え方の基準点が違います。対象の全郵便物について発送の作業を完了し、発送完了の通知(メールや発送件数のリストなど)を出した時点で業務が完了したとみなし、その時点を基準に報酬請求権が発生するとする書き方があります。この場合、発送は通常の郵便のサービスを使い、その受付の処理をもって完了と認定すると書き、郵便物の受領、配達完了、返送の有無は完了の効力に影響しないと定めます。基準点は「ポストに入れた」ではなく「郵便局に出した」で、到着までは含みません。
| 基準点 | 意味 | 委託者にとって | 受託者にとって |
|---|---|---|---|
| 送信操作の完了 | フォームの送信ボタンを押し、エラーが出なかった | 届いていない送信にも払う可能性がある | 数えやすく、報酬が早く確定する |
| 受信・到達の確認 | 相手方の側で受け取られたことが確認できる | 実際に届いたものにだけ払う | 確認の手段がなく、報酬が確定しないおそれがある |
| 発送の受付 | 郵便局などの受付が済んだ | 出した件数に払う。不着や返送は別に扱う | 自分の作業の範囲で完了を主張できる |
| 到着・返送なし | 宛先に届き、返送されていない | 返送分を差し引ける | 宛先の不備による返送でも報酬が減る |
どの基準を選んでも、リストの不備による空振りを誰が負担するかを、別に決める必要があります。
契約書の中に完了の時点が二つ書かれている場合も、設計のうえで注意が必要です。一方では発送完了の通知を出した時点で完了とみなされ、他方では発送完了報告書を送付した時点で完了とみなされる、というように、「完了」を示す事象が複数あると、請求や支払の起算点がずれて争いになります。完了の事象は一つに絞り、その事象と報酬の請求、検収、支払期日を一連の流れで書きます。
郵送DMの発注から完了までの流れ(一般的な例)
- 素材の提供委託者が送付リスト、文面データ、同封物を期日までに提出する
- サンプル受託者が手紙1通を試作し、表裏のスキャン画像を電子メールで示す
- 確認委託者が一定の営業日以内に承諾又は修正を伝える。無回答は承認とみなす
- 本作業・発送承認した内容で作成・封入・切手貼付・発送する
- 完了報告発送の件数や実施日を記載した報告を送り、これをもって完了とする
承認後の内容変更は原則として受け付けず、受け付ける場合は追加の費用と日程の調整の対象とする、という定めを置くことが一般的です。
このサンプルの確認の仕組みは、品質のトラブルを減らすうえで効果的です。ただし、「何営業日以内に連絡がなければ承認したものとみなす」という条は、委託者にとって不利に働きます。そこで、サンプルの無償の修正に回数の限りを設け、それを超える修正は費用を委託者が負担すること、「修正」の範囲に文面全体の差替えや設計の根本的な変更は含まないことを、あわせて書く方法があります。受託者の側は、承認の期間と修正の範囲を明確にして作業の手戻りを防ぎ、委託者の側は、期間の起算日が自分の受信した日であること、休日の扱い、承認とみなされる前の再確認の機会(リマインド)を求めることができます。
文面の責任とAI:誰の表示なのか
営業の文面は、受け取った相手にとっては委託者の広告です。文面の作成を受託者に任せても、そこに書かれた商品や役務についての表示の責任は、通常、商品や役務を供給する委託者の側にあります。景品表示法の不当表示の規制(5条)は、事業者が「自己の供給する商品又は役務の取引」について行う表示を対象としていて、表示とは、顧客を誘引するための手段として事業者が自己の供給する商品又は役務の内容や取引条件について行う広告その他の表示をいう、と定義されています(同法2条4項)。実際に文面を書いたのが外部の代行会社でも、商品や役務を供給して表示の内容を決めるのは委託者ですから、表示の責任は委託者に置くのが基本の整理です。なお、5条各号は「一般消費者」に対する誤認を問題にする規定なので、事業者だけを相手にする営業の文面にそのまま当てはまるとは限りません。
営業の相手が消費者で、文面が商品や役務の購入の申込みを郵便やインターネットで受ける内容であれば、特定商取引法の通信販売の規定も関わり得ます。商品や役務の条件について広告をするときの表示事項(同法11条)や、著しく事実に相違する表示、実際のものより著しく優良・有利だと誤認させる表示の禁止(同法12条)です。もっとも、相手が営業のために又は営業として契約する事業者であれば、これらの規定は適用されません(同法26条1項1号)。BtoBの営業が中心なら、特商法の表示の規定は原則として外に置き、取引の相手に対する信用と契約上の責任の問題として文面を管理します。同じ商品や役務を消費者にも売るのであれば、消費者向けの表示の規制も意識しておきます。BtoBかどうかの見分け方は勧誘のルールと特定商取引法で扱っています。
契約には、文面の責任の分担を次のように書き分けます。
- 文面の案を作るのが受託者でも、内容(効果、価格、実績、比較の表現)の最終承認と責任は委託者が負う。
- 受託者は、委託者の指示に従って作成するが、法令に違反するおそれがあると判断した記載は、作成を保留し、理由を委託者に伝えることができる。
- 委託者は、文面に書く実績や数値の根拠となる資料を保有し、求めがあれば受託者に示す。
- 承認した文面の内容を委託者が自由に変更できるのは、サンプルの確認の期間内に限る。
手紙の営業サービスに、AIで文面を作る機能を含めることがあります。AIが作った文面は、事実と異なる記載、実在しない実績の記載、誤った固有名詞を含むことがあり得ます。AIを使う機能を含む場合は、次の点を契約で決めておきます(以下は一般的な整理です)。
確認の問いと理由AIで文面を作るサービスを契約にするときの問い
入力した宛先の情報や文面の下書きを、AIの学習に使いますか。
委託者は、自社の顧客・見込み客の情報や未公開の商品情報を入力します。学習への利用の有無を決めないと、委託者が情報の漏えいを心配する一方で、提供者はサービスの改善のために使いたいという食い違いが生じます。使わない、又は匿名化して使うなど、はっきり書きます。
AIが作った文面は、誰が確認して承認しますか。
確認の責任を委託者に置くなら、サンプルの確認の手続と合わせて、承認した文面を送ることに同意する旨を明記します。
AIが作った文面の著作権や利用の範囲はどうなりますか。
著作物として保護されるかどうかは文面ごとに異なり得るため、提供者が権利を主張しない、委託者は自社の営業のために自由に使えるなど、当事者間の取扱いを決めておきます。
AIの提供元の利用規約の変更やサービスの停止があったとき、どうしますか。
外部のAIの機能に依存するサービスは、提供者のコントロール外の要因で止まることがあります。代替の手段、納期の変更、返金の範囲を決めます。
品質の非保証・郵送事故・料金の内訳
手書き風の手紙は、実際に人の手で書く場合も、機械で筆記する場合も、見た目の均一さを完全に保つことはできません。営業手紙の発送代行サービスの利用規約では、品質について触れていないと、利用者の期待と提供者の認識がずれます。そこで、手書きの文字の綺麗さ、可読性、誤字脱字がないことを提供者が保証しないことを明記し、申込み後の返金・キャンセルの扱いや、発送は普通郵便で行い到着を保証しないことも、あわせて定めておくのが一般的です。
書き方の例(一般的な例) 発送代行サービスの利用規約・利用申込書の書き方
品質の約束
「手書き」と案内するサービスでは、利用者が一定の見栄えを期待しがちです。保証しないものを具体的に列挙するのは、成果を保証しない条と同じ手法です。ただし、サンプルの確認の機会を設けることとセットにして書くと、納得が得やすくなります。
料金の内訳
通数が増減したときに、固定の部分と変動の部分のどちらが動くのかが分かります。切手代のような実費は、郵便料金の改定で変わり得るため、実費として別に精算するのか、料金に含めるのかを決めます。
申込み後の取消し
作業が始まれば取り戻せない費用が生じるため、キャンセルできる時点を分けるのが現実的です。たとえば、作業に着手する前に限りキャンセル料なしで取り消せる(準備のために生じた実費は負担する)と定める方法があります。
郵送事故に対する考え方も、契約ごとに違いが出ます。通常の郵便手段を使う場合は、郵便局の受付証明書、追跡番号その他の公的な証憑を発行しないこと、発送対象のリストと完了報告書が発送実施の合理的な証拠になること、別に郵送証明が必要なときは委託者が個別に明示することを条件に対応する、と書く方法があります。不着、遅延、返送が起きても、提供者の責めに帰すべき事由がない限り、再送の費用や損害賠償の責任を負わない、という整理です。
このとき「責めに帰すべき事由がない限り」の線をどこに引くかが問題になります。宛先の記載の誤り(リストが誤っていた場合は委託者、転記を誤った場合は受託者)、封入の漏れ、同封物の取り違えは、郵便局の事故とは別の、受託者の作業の問題です。郵便事故の免責は郵便局の取扱い中の事故に限り、作業のミスで起きた誤送付や封入漏れには再作成・再送の責任を負う、と書き分けておくと、委託者の側も受け入れやすくなります。個人宛の手紙を誤った宛先に送ってしまえば、個人データの漏えいに当たり得ます。個人情報保護委員会への報告が必要となる事態の範囲は規則で定められていますが(個人情報保護法26条1項)、委託を受けた者は、委託者に通知した場合には委員会への報告をしなくてよいとされています(同項ただし書)。漏えい等が生じたときの通知の仕方と期限を、契約に書いておきます。
責任の上限と、間接損害の扱い
受託者の責任を、報酬総額を上限とし、営業利益や受注予定の逸失、データの滅失、第三者からの請求、精神的損害を免責する形にし、故意又は重過失のときは別とする設計は、営業の文書の代行では一般的です。たとえば、誤った宛先に営業の手紙が大量に出て、委託者の評判が損なわれた場合、そこで失った商機の賠償は請求できず、請求できるのは報酬の範囲に限られます。委託者の側は、個人情報の漏えいのような重大な事故について上限の外に置けないかを検討し、受託者の側は、報酬の何か月分かで限る案など、上限の額を明確にしておきます。上限の設計の比較は賠償上限のページにまとめています。
規約か契約書か:形式、解除、権利、再委託
まず確認したいのは、「約款」と題した書面が、実質的には当事者が特定された個別の業務委託契約書になっていないか、という点です。約款(民法でいう定型約款)は、特定の者が不特定多数の者を相手方として行う、内容が画一的であることが双方にとって合理的な取引(定型取引)で、契約の内容とするために準備された条項の総体をいいます(民法548条の2第1項)。当事者が甲・乙と特定され、業務、報酬、期間が個別に決まる書面は、この意味の約款ではなく契約書です。名前と中身が合わないと、相手方が「規約だから従うしかない」と受け止めたり、署名や合意の必要性があいまいになったりします。
対照的に、発送代行サービスの利用規約と利用申込書のように、不特定多数の利用者に同じ条件で提供する形の規約は、定型約款に近い構造です。この形では、利用者が規約の内容を事前に確認できること、申込みの画面や書面で規約に同意する手続を置くこと、規約の変更の手続を決めておくことが大切になります。民法548条の2第2項は、約款の条項のうち、相手方の権利を制限し又は義務を加重するもので、取引の態様や実情、社会通念に照らして信義則に反して相手方の利益を一方的に害するものは、合意をしなかったものとみなす、と定めています。返金・キャンセルの不可、免責、損害賠償の制限といった条項は、この観点から見直されるおそれがあるため、サンプルの確認の機会や、作業着手前のキャンセルの余地などで、全体のバランスをとっておきます。
| 論点 | 起きやすい書き方 | 見直しの方向 |
|---|---|---|
| 書面の性質 | 約款と題するが、当事者を特定した業務委託契約書の構造 | 契約書として名称・成立日・署名欄を整える。成立の時点を明文化する |
| 業務の定義 | 「フォーム営業」「付随業務」が抽象的 | 事前に承諾を得た企業のリストに所定の文面を送る行為と定義し、付随業務は合理的に必要な範囲に限る |
| 契約期間 | 期間の終わりが不明確で、解約の手続も書かれていない | 起算日、期間、更新、双方の中途解約の手続を書く |
| 報告 | レポートの提出の時期や項目が決まっていない | 提出の時期、形式、項目と、委託者が確認する期限を決める |
| 著作権 | 権利は受託者に残すとしながら、委託者が無償・無期限・独占的に利用できるとしている | 譲渡型か、独占的な利用許諾型かのどちらかに整理する |
| 解除 | 解除権が一方当事者にだけある。解除後の精算の定めなし | 双方の解除事由と、解除日までの業務の対価の精算、存続条項を置く |
著作権の条は、見落としやすい矛盾の例です。権利は受託者に残すと書きながら、委託者が無償・無期限・独占的に利用できると書けば、実質は移転と変わりません。そこで、①対価を前提に著作権(著作権法27条・28条の権利を含む)を委託者に譲渡する型、②権利は受託者に残し、委託者に無償・取消不能・期間の定めなく、独占的に複製や公衆送信などを許諾する型、のどちらかに整理します。制作物の権利の考え方は制作物の権利と実績公開で詳しく扱っています。
再委託も、この仕事では避けて通れません。受託者が能力と信頼性を備えた第三者に業務の全部又は一部を再委託できるとし、再委託先に同等の義務(秘密保持、個人情報保護)を課して履行を監督する責任を受託者が負うこと、委託者が事前に書面で再委託の禁止を表示した部分は再委託しないことを定める書き方があります。宛先リストを渡す委託者の側からは、再委託の自由は個人情報の保護の観点で不安が大きい条項です。再委託を認めるなら、再委託先の名称又は所在地の開示、再委託先が日本国内か、リストの二次的な複製を作らないか、といった点を事前の承諾の条件に加えます。
起きがちなことと、契約書での備え
契約書・規約に入れる事項の確認
- 宛先リストの出どころ(委託者提供、受託者作成、納品物)ごとに、取得元の適法性の保証の主体を分けて書いたか
- リストの目的外使用の禁止、複製の制限、終了時の返還・消去と報告を書いたか
- 再委託の条件(事前の承諾、同等の義務、監督)を書いたか
- 電子メールにあたる送信を含む場合、同意の取得元と記録の保管、拒否の通知の受付と共有、表示事項の担当を決めたか
- 「送信完了」「発送完了」の定義、報告の様式、検収の期限、異議の手続を書いたか
- 文面の最終承認と表示の責任の分担、法令違反のおそれがあるときの保留の権利を書いたか
- AIを使うなら、入力データの学習利用、確認の責任、停止時の代替を書いたか
- 品質の非保証の範囲、郵送事故の免責の範囲、作業のミスの責任、料金の内訳、キャンセルの時点を書いたか
- 責任の上限と、個人情報の漏えいなど上限の外に置く事項を決めたか
書面やフォームによる営業の代行は、電話と比べると目立たず、規制も少ないと見られがちです。しかし、宛先に個人の情報が含まれ、文面は委託者の名前で届き、1通ごとに費用がかかるという性質のため、契約書の細部がそのままトラブルの有無に表れます。報酬の算定は報酬・手数料の決め方、契約期間と中途解約は契約期間と中途解約とあわせて設計します。
よくあるご質問
フォーム営業の代行契約では、まず何を決めればよいですか?
宛先のリストの出どころと適法性の責任、文面の最終承認、「送信完了」の定義と検収、品質の非保証の4つです。たとえば、送信完了件数の定義と検収の手続がないと、支払の段階で認識のずれが生じやすくなります。
営業のメールやフォーム送信には、特定電子メール法がかかりますか?
電子メール(SMTPを用いる方式、又は電話番号宛ての方式)で広告・宣伝を送るなら、特定電子メールとして3条の同意や4条の表示の義務がかかります。郵便で送る紙のDMや手紙は、この定義の外です。フォーム送信については、本ページでは断定せず、条文の定義と所管官庁の公表資料で確認する整理にしています。
宛先リストを代行会社に預けるとき、本人の同意は必要ですか?
利用目的の達成に必要な範囲内で個人データの取扱いを委託する場合、受け取る側は第三者に当たらないため(個人情報保護法27条5項1号)、委託の範囲内であれば新たな同意は不要です。その代わり、委託者には委託先を監督する義務があり(同法25条)、契約で安全管理や再委託、返還・消去を決めます。
手書き風の手紙の見栄えや誤字は、誰の責任になりますか?
一般に、規約には、手書きの文字の綺麗さ、可読性、誤字脱字がないことを提供者が保証しない旨を明記します。ただし、サンプルの確認の機会を設け、作業のミスで起きた誤送付や封入漏れは別に扱うと書いておくと、利用者の納得が得やすくなります。
AIで作った営業文面に問題があったとき、代行会社は責任を負いますか?
文面の表示の責任は、通常、商品や役務を供給して内容を決める委託者にあります(景品表示法5条、2条4項。消費者向けの表示の場合)。契約では、最終承認と責任を委託者に置きつつ、受託者が法令違反のおそれのある記載を保留できること、入力データを学習に使わないことなどを書きます。
あわせて読みたいページ
本ページは一般的な情報提供です。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や案件を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています(最終確認日:2026年10月22日)。参考: e-Gov法令検索 / 特定商取引法ガイド(消費者庁) / 表示対策(消費者庁) / フリーランス法特設サイト(公正取引委員会)